夜殺し【国見英】 (ページ4)

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「ビビデバビデブー、ビビデバビデブ～」

シンデレラの魔法がかかった思い込みをしながら、道端の草木に魔法をかける振りをする。

空想は設定がぶれやすい。
魔法をかけたのは夜だったのに、いつの間にか自分も魔法を使えるようになっている。
でも、青色のワンピースもオシャレなヒールのパンプスも、全部私を楽しませてくれるからいいのだ。設定がぶれたって、自分が満足していればいい。

楽しさにかまけ、気まぐれに人の目を避けて進んだからか普段通らない道を選んでいた。
帰り道は大体脳内マップで描けるが、少しだけ不安になってきた。何も考えずに手ぶらで来たことが裏目に出そうだ。
スマホくらいポケットに突っ込んでくれば良かった。こんなに歩いたのに歩数計にだって計測されやしない。

「サラガドラ～皿は虎～」

口からは適当な意味のない言葉が飛び出す。夜の世界の心地よさに酔いしれて、呑気に拍車がかかっていた。そんな、何にも考えず、木の下の小道を歩いていた時だった。

　車のヘッドライトも届かない、風と草が擦れる音しか聞こえない場所で、人の足音が聞こえた。

深夜の人気のない小道。
近くにあるのは神社だけで、そこまでたどり着くのに300mは歩かねばならない。数メートル間隔で建てられた街灯の光だけの、心許ない一本道だ。ビビるにはもってこいの場所であった。

そうだった。脅かしてくるものこそ違うが、夜とは元来こういうものだった。
私を苦しめ、恐怖させるものだった。
夜は自分の手を使わずに、他のものに私を殺させようとしているのだ。
きっと明日には、「女子高生誘拐」だの「何者かによって殺害された17歳女性」だの言われてしまうのだ。

飛躍しすぎた思考だとは思えなかった。
いつの時代も、顔はどうあれ女子高生は犯罪の格好の的である。

こんなことなら、玄関の前で深呼吸してすぐに引き返せば良かった。

どんどんと近づく足音は恐怖心を掻き立てる。
スマホも財布もない、交番も遠い。状況は最悪だ。もう死を覚悟するべきなのか。

怖くなって馬鹿みたいに足がすくんで、へなりとその場にしゃがみこんだ。
もうだめだ。己の馬鹿さが招いた運命を受け入れるしかない。
息をできる限り潜め、見逃してくれないかななんて一縷の望みをかけた。
1秒が、一瞬がとんでもなく長く感じる。死ぬ前の走馬灯でも決めておこうか。

影が大きくなった。振り返らなくてもわかる。すぐ後ろにいる。

私は息を止めた。