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「もう、結構探したんだよ?お前ら三人、結構ずんずん進んでっちゃうから」
不思議と人を落ち着かせる柔らかい声も、俺を見つめるアンバーっぽい瞳も、何もかもいつも通りのガッチさんだ。
俺の背後に化け物の死体、俺の正面から聞こえてきた悲鳴。恐怖と恐怖で板挟みになっているこの状況に似合わないくらいに、彼は落ち着いている。多分、ビビりの俺を不安にさせないように気遣ってくれてるんだろう。ガッチさんはどんだけ気の置けない仲になろうがそういう人なのだ。
その気さくに話しかけてくれた声に応じたい。応じたいのだけれど、できない。
代わりに喉を震わせたのは、これ以上ないくらいの悲鳴。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!どうして!!どうしてなんだよ!!」
「....」
「どうしてガッチさんは....ひ、ふ、二人の、二人の....!!」
どうして、キヨとレトさんの、首から下がない死体なんて持っているんだ。
皆まで言うのは耐えきれなくて、二の句を継ぐ前にその場に崩れて吐いた。
「おぇぇ、おぇぇぇっ....」
ぼたぼた溢れる吐瀉物。背後の死臭と混ざって、最悪の臭いが辺りに立ち込め始めた。それでも、変わらず脳はあり得ないくらいの恐怖に支配されたままだ。
二人の顔を見てしまった。
レトさんの涙を流して恐怖に歪んでいる顔を、キヨの凍りついたような虚ろな顔を。
怖い以外、何も考えられなくなって、また堪らずに吐いた。中身は出てこなかったけど、構わずに何度も何度も噦いた。もうこの数時間で枯らしたと思っていた涙が、とめどなく溢れてくる。
無様な体を晒しているであろう俺を、ガッチさんは楽しそうに見ていた。楽しそうに。いっそ無感情に見ていてくれてた方がまだマシだった。彼はいつも通り楽しそうに、にこやかに笑っている。それが、あの二人の生首を両手に抱えている死神が、他でもない彼なんだと容赦なく告げているようだった。
「いやぁ、大変そうだね。うっしー」
「......どうして....どうして......!」
震える声で、辛うじて言葉を絞り出す。
どうしてだと。どうしてそんなものを持っているのだと。
俺の嗚咽にも似た問いかけに、ガッチさんは笑みを少し困ったようなものに変えてから、すっとこちらに歩き出した。びく、と体が跳ねる。
今からガッチさんの手にかけられて、俺もああなるかもしれない。二人と一緒に生首の姿でガッチさんに抱えられてしまうかもしれない。
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作者名:カペラ検事 | 作成日時:2019年5月20日 19時