弱者というのは ページ16
もう十分は動きを止めている。
日もすっかり落ちて漆黒の闇に変わった。
肩に置かれた立綱の手で一人ではないとわかる。
[向こうへ行ったぞ。早く帰らなければ]
[分かった。どの道ならいいんだ？]
[まだわからない]
と、その時だった。
[だ、誰か助けて！]
木を何本か越えた先から悲鳴が響く。
しかも、その声はどう考えても紫苑の透き通った高く響くこえであった。
[いくぞ、立綱]
[ああ]
助けてねえと。
あいつは俺に助けてといった。
俺はその時、なにを言っているのか分からなかった。
でも、今は。
光なんてない。
それでも正確な位置が分かる気がして、無意識のうちに俺の左足は前に出ていた。
立綱も親につく雛鳥のように離れないように付いてくれる。
足がずきりと痛んだ。きっと普段動かさない筋肉たちが悲鳴をあげているのだろう。
こんなんだったら、昔から運動していれば良かった。なんて、後悔するのはあまりにも遅すぎるか。
辺りはもちろん暗闇。しかし、たどり着いた先は緑と、白の光が天から舞い降りていた。
銀色の人形が、大きさは大の大人ほど、紫苑の首を締めていて、紫苑の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
[どけよ、化け物]
自分の頭ほどの石を地から持ち上げて思いきって投げた。銀色のそいつに当たると、水のようにぽちゃんと音がして、石は消えていった。
どさり。鈍い音を立てて化け物は紫苑を離す。紫苑は息苦しそうに咳き込む。
顔と思われる部分を俺たちの方へ向けた。
[ああ。かか。ささ。たた。なな。はは____]
化け物はどこからか声を発していた。
どれもアの音を取っている感じだ。
[逃げて。私の王子様、立綱、私はいいからっ！]
紫苑が叫んだその瞬間だった。
化け物の右手が槍のような形になって伸びていく。
風を切る音とともに手前の木が真っ二つに切れた。
そして、勢いよく俺たちから離れるようにその木が倒れた。
[やや。らら、わわ。ああ、かか]
石同士が擦れるような不気味なアの音。
[紫苑、俺が惹き付けるから逃げろ！ これは償いだよ。ごめんな、紫苑。立綱も逃げてくれ]
[そうか。でも、断る。こう見えて僕は馬鹿だ。読書家であってもね。化け物にあうとパニックに陥って正確な判断ができないんだ。だから、断る]
そして、俺と立綱は走り出す。化け物の周りに円を描くように。
[ああ。かか。ささ]
槍のごとく伸びる右手。音を立てて転ぶ木々。俺たちはこいつと戦う訳じゃない。紫苑を逃がすだけだ。
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ゆい(プロフ) - norio117さん» いつでも返信します！評価、ありがとうございます！ (2018年8月2日 13時) (
レス) id: bf5077db51 (このIDを非表示/違反報告)
norio117(プロフ) - ゆいさん» ありがとうございます！ (2018年8月2日 13時) (レス) id: bd732d3351 (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - norio117さん» 凄く引き込まれるようなお話でした。 また、文章とか分かりやすくて、素晴らしかったです、タイトルから話まで興味をそそる内容でしたので読ませていただきます。作品の申請お忙しい中、ありがとうございます！ (2018年8月2日 13時) (レス) id: bf5077db51 (このIDを非表示/違反報告)
norio117(プロフ) - オリジナルです。 (2018年7月18日 18時) (レス) id: bd732d3351 (このIDを非表示/違反報告)
米子(プロフ) - アイカさん» ありがとうございます。せっかくアイカ様にいただいたものなので、伝説に残るようがんばります (2018年6月27日 18時) (レス) id: fa2781bdc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：海苔男 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/my.nori118
作成日時：2018年6月17日 22時
