ep.145 ページ8
翌日。
私は、高校に入って初めて、
授業中にノートを取るのをサボった。
頭が働かなくて。
惰性で動かすペンは、何を記しているのかもよくわからなくなって、ペンを置いた。
なんだか、自分が自分じゃないみたい。
何も言うことを聞かなくて。
……この先生、あんまり厳しくないしいいかな、なんて
考えちゃいけないことを思いながら、
私はぼんやり窓の外の飛行機雲を目で追っていた。
そして、昼休み。
忠くんに、先生に呼ばれていると嘘をついて教室を出た。
向かった先は、部室。
中に入ると、そこはいつもと同じ匂いがした。
バレーの匂い。
バレー部の匂い。
お兄ちゃんの匂いだ、と思った。
辞めないで、欲しいなぁ……。
部室の空気を思いっきり吸って、
私は目を閉じる。
選手のみんなはもっと苦しいはずなのに。
こんなところで立ち止まってるなんて。
自分が、情けない。
……今頃、決勝が始まったくらいかな。
ひどく、虚しい気持ちになった。
ポケットの中でケータイが震える。
そういえば、昨日から見てないや。
ぼーっとしながら取り出して、
メールを開く。
一番新しいメッセージは、研磨くんからだった。
【おつかれ】
何の含みもない、たったの4文字。
……そっか、伊達工に勝ったことはメールしたんだっけ。
そんなの、三回戦で負けたのなんか普通にわかるよね。
迷って、迷って、
私は彼に電話をかけた。
孤爪【……もしもし？】
『研磨くん』
孤爪【うん】
『研磨くん……』
孤爪【うん】
『…ごめんね。
ごめん、東京、行けなかった……』
孤爪【…うん】
慰めて欲しいわけじゃ、ない。
ただ誰かの声を聞いていたいだけで、
きっと研磨くんは最初に名前を呼んだ瞬間からそんなことはお見通しだったんだと思う。
研磨くんの名前を呼ぶのも諦めて、
私たち二人の間に流れる沈黙は、
優しくて、穏やかで、心地よい。
しんみりした気持ちを引きずりかけた、その時。
電話の向こうでガサガサと物音がした。
夜久【A】
『……やっ、くん？』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 283人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
中村茜雫(プロフ) - らんしゃむさん» らんしゃむ様 コメントありがとうございます。紹介にもあるよう死ネタとなっております、申し訳ありません…。ただお声が多ければifで主が死なずに済む√を作ることも考えています。何卒お願い致します。もし良ければ最後までお付き合い頂けると嬉しいです。 (2019年3月6日 23時) (
レス) id: 928f90edf9 (このIDを非表示/違反報告)
らんしゃむ(プロフ) - え、死ネタですか、、、回避できないですかね？ (2019年3月6日 4時) (レス) id: dfe0d85699 (このIDを非表示/違反報告)
中村茜雫(プロフ) - 桜ひかりさん» 桜ひかり様 コメントありがとうございます！予定はありませんが、全て書き終えた後に私の気力が残っていれば…本編とは別のサブルートとしてなら或いは……！需要にもよりますのであまり強い期待はなさらず頂けますとありがたいです。最後までどうぞお付き合い下さい。 (2018年10月28日 18時) (レス) id: 928f90edf9 (このIDを非表示/違反報告)
桜ひかり(プロフ) - 別の生存ルートとか作っていただけたり…しないですね笑更新楽しみです (2018年10月28日 14時) (レス) id: 4bee8b72e3 (このIDを非表示/違反報告)
中村茜雫(プロフ) - なおみさん» なおみ様 再びコメントありがとうございます。死ネタ苦手でしたら申し訳ないです…！ 最後まで夢主ちゃんの日常を尽くせる限りを尽くして書き切ろうと思いますのでよければどうぞ最終話までお付き合い下さいませ。 (2018年10月27日 8時) (レス) id: 928f90edf9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：中村茜雫 | 作成日時：2018年10月10日 8時
