story29 ページ30
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((Yuri side))
ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ
今まで何百回、何千回とこの家のベルを鳴らしてきたけど、今日は特別な1回になる。
今までの未練とお別れすることを決めた。
未練を思い出に変えて、心の中にしまっておくため。
そして、前に進もうと思う。
A｢いらっしゃい！｣
侑李｢やっほ！｣
涼介から宏太が来ると伝えられていたAはキョトンとしている。
A｢あれ、侑李？｣
ほらまた“侑李”って。“くん”はいつのまにか消え去った。
侑李｢宏太に代わってもらったの。ね、ちょっと出かけよ？｣
心配するAをなだめて準備をさせる。
今日くらい僕に付き合ってよね。
今日で最後にするからさ。
覚悟を決めたはずなのにまた涙がこぼれそうになる。
大きな瞬きで誤魔化して、もう一度覚悟を決める。
侑李｢はい、乗って？｣
運転席に僕。助手席にA....久しぶりの距離感が懐かしい。
A｢うわぁ、見て！綺麗！｣
そっか....もうここも忘れちゃったんだね....
侑李｢桜並木だよ。もう散っちゃうけど、道一面が花びらで埋め尽くされてとっても綺麗なんだ｣
この道だって、2人で手を繋いで一緒に歩いたんだよ。
侑李｢はい、着いたよ｣
A｢海だ！こんな所にこんな綺麗な海あったんだ....！｣
海を見てテンションが上がるA。
子供みたいにはしゃいで、砂浜を駆け回っている。
侑李｢あ、貝殻見つけた｣
A｢これも可愛いよ！｣
いつの日かもこんなやり取りをした気がする。
A｢あ、カニさん！｣
侑李｢こっちにもいるよ！｣
A｢小さいね｣
侑李｢よし、そろそろお昼ご飯食べよっか！｣
あと少し....数えるくらいしかない時間。
思い出してくれるかな....思い出してよ....
キラキラの笑顔で楽しそうにしているAを見ると少し切なくなる。
別にヨリを戻したいわけじゃない
僕のところに戻って来て欲しいわけじゃない
でも、なぜか思い出してほしいんだ。
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作者名：ぽぽ | 作成日時：2018年5月19日 18時
