164 ページ14
▼
『やけに詳しいね』
『……まあ、昔から学校の成績は良かったので』
いつかのレッスンの帰り道、沙原星のことが話題に上がった。
どういう星か……彼方さんなら簡潔に説明できると思った。だけどあのとき、Aが「たしか…」と先に全部言ってしまったのだ。スラスラと地理のテキストを読み上げるみたいに。彼女の吸収が早い点は暗記にも適応するらしい。
楚方のそんな様子を見兼ねた凪沙は、目と鼻の先の銀世界を指差してから「ちょっとだけ外に出てみない？」と提案した。
この発言に友歌は反対気味。さすがに不味いよ、DESがいるかもしれない。そう言うのももっともだ。けれど、ここでじっとライブの下準備が終わるまで待機することも退屈かもしれない。
「なになに、外行くの？」
77期「「「！」」」
「A！？」
全員が、声がした方を振り返る。戦闘にまわったはずのAがいる。どうして、なんで。疑問は浮かぶのに驚きですぐには言葉にならない。訊いたのは鈴子だった。
Aが言うには、現状できる最終確認も終わったので後は呼び出されるまで待機になったらしい。襲名メンバーはライブ前最後の練習。たかみなさんも医務室でお休み中。
「ツバサさんたちもまだ進展ないみたい。それで、みんなを探していたってわけ。ここにいても暇だし雪だるま作りながら待つのもいいんじゃない？」
「だるまん！」
「ちょ……さすがに不味くない？ だって、DESがいるかもしれないんだよ？」
「研究生が遠征先でライブをするのは初めての試み。私たちの顔まで割れてる可能性は低い。それに……何かあれば私がみんなを守るよ」
目の前にいるAは、私の知ってるAだった。説得力のある文言で、反対気味だった友歌は黙ってしまう。
私も、もしものことがあれば一緒に戦う準備は出来てるし。
「じゃ、偵察ってことで」
Aに目配せをする。彼女には言わずとも伝わったようで。先んじて外へ通じる出入口に向かう私の横に追いつくと、同じスピードで隣を歩いていた。
後に楚方や凪沙たち……と、みんなの声が背中から聞こえてくるように。雪を見てテンションが上がった子たちにやがて追い抜かれる。まるで野に放たれるかのようなはしゃぎぶり。
今なら、言えるかな？
「A」
「ん？」
「私思ったの。Aの想いも背負って、ライブで愛を届けてみせる」
「智恵理……。ありがとう」
Aは少し笑っていた気がした。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 60人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年10月21日 14時
