158# あの子はあの子で ページ8
▼Kanata
間に合わなかった。たかみなさんを、守れなかった。
わたしは。もっと、もっと……もっと！
「もっと、強くなろう。もっと、頑張ろう。……もっと、もっと！」
あんなに悔しいことがあったのに宇宙はいつもと変わらない。船の窓からは見慣れた光景がある。削れて塵と化してしまうであろうちっちゃな流星体が、ふわふわと何にも縛られずに漂っていた。
目から雫が垂れる。瞼を開けたら薄い強化ガラスにわたし以外の人の姿が映っていることに気づく。振り向いた先にいるのは、両手を後ろで組んでただ立っているA。
「医務室にいたんじゃなかったんですか？」
「それが……初出撃で疲れてるだろうって、優子さんに追い出されたんだよ。Aはどうしてここに？」
「なんだか落ち着かなくて。結局私は何もできなかったから」
ああ、まあ……ね。でも状況が状況だし、Aは賢いし。そこまで落ち込むことはないんじゃないか。そうは思いつつ、わたしはAの頑張ってる姿をこの目で見ている。
他の77期生も勿論頑張っている。決して贔屓目ではないけれど、違う意味で凄いっていうか。特にキララが現れてから顕著な気がするんだ。襲名メンバーにも積極的に話しかけに行くし。
「彼方さん。泣きたいときこそ歌ですよ！」
「歌？ そういえば休憩時間になると、端でイヤホンすることあるよね。アレって精神統一か何かなの？」
「まあ……外れてはいないです」
はい、とイヤホンの片側を差し出された。わたしはそれを己の耳につける。
気合いの入る曲にしましょう、と言われた。二度ほど携帯の画面をスクロールすると、この場に合う曲を見つけたらしい。『Show Fight!』、00の音源はないからとオリジナルver.が流れてきた。
「これも運命ですね」
「え？」
「自分の無力を感じた二人が、同じ場所で同じ気持ちを持っている」
「同じ気持ち……」
「それに……彼方さんは先輩ですけど、私たち一応同い年じゃないですか。そういう意味でも放っとけないというか。……何言ってるかわかりませんね、私」
意味深な言葉。それから先は教えてくれなかった。
Aはふい、と視線を外すと歌詞を口パクでなぞり始める。彼女のキララはその間、とても優しい光を放っていた。
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□Show fight!の選曲理由
一応アニメの放映が2012〜13年なので、その頃に発売された曲から雰囲気で選んでいるだけです。「現在」から挙げたらまた違うと思います。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年10月21日 14時
