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わたしは一番に追いかける。友歌が呼んでいた気がするけど、わたしは足を止めない。みんなのところへ引き返さない。部屋への階段を登ろうとしたところで智恵理も来た。
「真琴がネガティブなのは前からだし。Aがあんなこと言ったのは、きっと他にも理由があるんだよ」
「……うん。私も、織音と同じこと思ってた」
智恵理と上の階へ。部屋へ入ろうとしていたAを呼び止めようとして、いつもより大きな声が出た。彼女はキョトンとしている。怒りはどこへやら。そこまで感じる。……それとも本当に悪気はなかったか。どちらか。
でも違う。多分治まってはいない。Aは基本顔に出さない。ここに着くまでに誰かとすれ違ったなら『何かあった』、そんなことを気づかせない程度には隠すのも上手。
Aの部屋は、同時に智恵理の部屋でもある。廊下の真ん中で立ち話もなんだと、わたしも中へ。二人は入るなり荷物を床に下ろす。Aは手首のブレスレット類も外していた。
「織音さあ、私にあまり構わない方がいいって」
「え？」
「同室の友歌たちと気まずくなるでしょ」
ほら。Aはこういうところが優しい。自分のことより、わたしとその周りを心配してくれる。そんなAが、真琴にただ辞めたらなんて言うはずがない。
違和感が分かっていて知らないフリはしたくなかった。だって、わたしが憧れたさしこさんは……誰かの顔を見て流される人じゃない。合わせていたら、いつまでも研究生のままだと思う。
「ありがとう。……でも、Aの言うことはいつも簡潔すぎるから。どういう意味なのか、もうちょっと詳しく聞きたくて」
「意味も何も、そのままだけど」
「違う」
互いにまっすぐ目を見ていた。わたしも、Aも。折れたのは……あっち。真摯に尋ねればAは応えてくれる。
「まあ疲れていて、いつも流すのにできなかったのもあるんだけど。私……真琴が『無理』とか、自分を卑下する度、ファンを軽視してるみたいで苛苛するんだ」
「ファンを、軽く見てる……？」
「真琴のファンは『横溝真琴』が好きなんだ。どうして、誰かと比べるんだろう。自分なんかって言うんだろう」
握手会。開始前から真琴のレーンにも行列ができていた。
みんなは真琴のために票を投じたかもしれない。選抜入りできないわたしたちは、いつかファンの人達の愛に応えるために一層頑張りたい。それなのに……
「『無理』なんて、よく言えるよね」
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年7月13日 21時
