482 ページ32
▽
とりあえず名前を言った。こうしての対面は初。私だけではない。研究生は全員。襲名メンバーなら……会ったことは無くても元々のお名前があるんだし、とくの昔に覚えているものだろう。
ま、レッスン前半に名指しで指摘もされている。だから私も智恵理も美森さんも恵さんも、先生に名前は知られているんだが。挨拶は社交辞令のつもりで行う。
「あ、そうだ。あんたに一個確認しないと」
「……私。ですか？」
確認？ なんだろう。たかみなさんも首を傾げている。8代目ゆうこさんということで、以前9代目ゆうこさんに『夢はなにか』問われたことが頭によぎる。そういう系だったらどうしよう。
ちょっと怖い。身構える。たかみなさんを盾にする。
「そこまで警戒はしてないでしょ」
「……はーい」
たかみなさんの右肩から顔を出す。葵平先生は私たちの掛け合いを見て「研究生と襲名。関係なく仲良さそうで何より」と、とりあえず機嫌は良さそう。それでは本題へ。
「総選挙の中継観てたんだよ。瑠璃川って、苗字で呼ばれるの実は嫌だったりする？」
「…………んん。正直、あんまり好きでは無いです」
「だよね。私も愛称や名前で呼ぶの苦手だから少しわかる」
葵平先生は、基本的にはメンバーを苗字で呼ぶらしい。ゆきりんさんなら柏木、美森さんなら岸田。刺すような注意とともにこう呼ばれる。だから余計に怖く感じる。
さっきの……才加さんやゆいはんさんが名前呼びなのは、比較的親しい間柄だからかな。でも、たかみなさんは「たかみな」。話を聞けば「当時は高橋朱里がいたから」と。
「名前を覚えてもらうため、00は愛称を大切にしているでしょ。でも私は嫌なの。気を許せる友達や、仲間を大切にしたいというか」
「あぁなんとなくわかります」
「ありがとう。それで呼び方、『瑠璃』でも大丈夫？」
「しーちゃんさんからも『瑠璃ちゃん』と呼ばれてるので慣れています。お気遣いありがとうございます」
じゃあそれで。
決まったところで、レッスン再開を知らせるアラームが葵平先生のジャージのポケットからジリリと鳴った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 41人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年7月13日 21時
