127 ページ27
▼Chieri
自主練には美森さんも付き合ってくれた。けれど、踊る側ではなく観る側。自分の目では分からないところを指摘する役。レッスンでいう牛山先生の位置だ。
夕食の席で聞いた話。彼方さんが私を迎えに寮に向かった後、Aもレッスン室からいなくなったらしい。
先生が彼方さんと(特に)私を見て頭を抱えたときは一部始終の後。ピリピリしていたのはそのせいもあるかも、と美森さんが語っていた。
そのAは今はここにいない。ちょうど一度通して、音を停止した後に入口でノック音がしたから。相手はツバサさん。
『A、ちょっといい？』
『………はぁーい』
汗ふき用のタオル片手に彼女は退室。こちらを一度も振り返らず。横顔が見えた美森さんは「何かあったのかしら」と言い、バタンと雑に閉じた扉を見つめていた。
レッスンのお咎めなら、理由なく遅れた私も呼ばれなきゃおかしい。いや、むしろ私の方が悪いんじゃ……。なんで、と思っても自分の中で答えは出ない。
「美森さんは、何か聞いていませんか？」
「いいえ。そもそもわたくしは聞き出そうと思っていませんし」
「………それは、どうして」
美森さんは左右に首を振る。そして口角を上げてクスッと笑った。すると、後ろで水分補給をしていた彼方さんに視線を送る。
私がそれを追いかけたら当の彼方さんは目玉を上向きにして何やら考えている顔。少しの沈黙の後に話し出した。
「まあ、あれだよ。同じ志を持つ仲間でもね、言いたくないことの一つや二つあるでしょってこと。……智恵理も気持ち、分かるんじゃない？」
「…………はい。でも、少し驚いています」
「驚く？」
不思議そうな二人の視線を受け止めながらその訳を話す。
Aはたまに不真面目が目立つけれど、77期内なら彼方さん同様に中心になり得る子だ。頼れて頭も回る。楚方が表立ったムードメーカーなら、Aは一歩下がって見守る、影から冷静にフォローする感じ。
そういう信用を寄せる彼女が隠し事なんて。ちょっと意外。凪沙や友歌がこの話を聞いたら………
『大事なレッスンをサボったのに黙秘する資格ないよ』
『Aどうしたんだろう。わたしたちには言えないことなのかな』
こんなこと言いそうだな。せめて言わない理由がわかったらいいけど、そんなの白状するのと変わらない。
だから美森さんは他の人には聞こえないようにしていたのかもしれない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 63人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひな(プロフ) - 東雲れーたさん» わー！覚えていてくださってありがとうございます！！とてもわかりやすくて見ているこっちまで胸が暑くなったり、ちょっとヒヤヒヤしたり...これからも頑張ってください！！ (2月4日 23時) (
レス) id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
東雲れーた(プロフ) - ひなさん» 確認しました。向こうにもコメントしてくれたひなさんでしたか！ 作品を跨いで気に入っていただきこちらも嬉しい気持ちでいっぱいです。場面が頭に浮かぶ、文字なのに音楽や息遣いが聞こえてくる……一応そんな文章を意識してます。今後も楽しんでもらえたら幸いです。 (2月2日 8時) (レス) id: 35709d1cf1 (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - ここまで来ちゃいました！！ポケモンの作品まで書かれていたんですね....！大好きな作品だったのですぐにわかりました！文の読みやすい書き方などが大好きです😌 (2月2日 6時) (レス) id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
東雲れーた(プロフ) - 暇っぽちゃんさん» お返事遅くなってすみません。そう言っていただけてこちらも嬉しいです。応援ありがとうございます、頑張ります！ (2022年10月15日 20時) (レス) id: 70caf03276 (このIDを非表示/違反報告)
暇っぽちゃん(プロフ) - 久しぶりに0048の新作品があってとても嬉しいです…！！更新頑張ってください！！ (2022年10月6日 18時) (レス) @page34 id: 31b607a5e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月17日 20時
