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名無しの生物の頭からはウサギのように耳が生えている。額には橙色の楕円。今は左右に生えた手のような部分で、織音が分け与えた経口食品をしっかり支えてムシャムシャと食事中だ。
頭の部分だけ見れば楚方がお気に入りとする黒いミニハットによく似ている。彼女は普段だけではなくステージでもこのようなものを身につけるため、ファンの間では「そなぴょん」というあだ名がついていた。
「おいし〜い？」
「！？ モファーーー！」
「むかっ。そなたもシャァーーーッ」
親近感が湧いたのか、撫でようとした楚方。しかし手を伸ばしたら威嚇をされてしまった。見知らぬ食べ物を頬張る様子からするに、きっと盗られると思われたんだろう。
ただ愛でようとした楚方は良い気がしなかったみたい。負けじと威嚇し返していた。……何してるんだか。
モフ、と変わった鳴き声の生物はそれに怯えてしまい、織音の胸に飛び込んだ。体を触られることは警戒するんだと思ったつかの間、自分から彼女の肩や首に手を回すなんて。もう懐いているらしい。
「織音のこと、お母さんだと思ってるんじゃない？」
「え、お母さん……！？ お母さんなんて言われても、わたし……」
謎の生物に優しく触れながらも、その表情に浮かぶのは戸惑い。……藍花星でのライブの後で聞いたことがある。あのとき凪沙と友歌の家族について知ったけれど、織音の家族に関しては一ミリも出てこなかったから。
何も知らなかった私は「織音は会わなくてよかったの？」なんて、間抜けな質問をしたのだ。そこで初めて、彼女の両親はもう他界しており孤児であると知った。織音は幼い頃に親という人たちを亡くしたため、母親というものがどういう存在か分からないらしい。
そんな、眉を八の字にする彼女に声をかけるはまりこ様。
「いつもの織音でいいんですのよ。すごいことですわぁ〜。初めて出会った相手に、ここまで好かれるなんて」
「…………」
「才能だね。織音の」
「わたしが、お母さん……」
続くように、才加さんも。自然と織音の周りに集まる私たち。謎の生物は変わらず織音にくっついたまま。安心できる場所……か。楚方は拒否されていたが、織音の手は受け入れていた。何度か行き来した後、ポツリ言う。
モフフ。この子の名前らしい。理由はモフモフだから。甘えられ、周りに母親と言われて情が湧いたらしい。たしかに名無しや謎の生物とかで呼ぶのは煩わしいけれど……。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年10月22日 13時
