668# ただひとりの夢物語 ページ18
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医務室のベッド。今は二つが埋まっていた。手前には真琴、奥には9代目きたりえが休養に努めている。それぞれの傍らにもメンバーが。真琴のところには友歌と織音、鈴子。きたりえのところには10代目あきちゃ。
楚方の姿はなぜか見えない。トイレだろうか。そのこともあり、室内は沈黙していた。手持ち無沙汰の鈴子は自身の携帯を取りだす。……けれど、様子がおかしい。
最初に気になったのは織音。彼女が「何してるの？」と訊ねると、その場の全員が鈴子に視線を向けた。
「なんにも、出てこないんです……」
「え？」
「00のことが、どこにも。ファンの方たちが作った、ホームページも無いんです……」
あまりのことに目を開く面々。DES軍が権力をかざして消したのか、あるいは……取り締まりが厳しくなり、作成した本人が削除をしたか。芸能の聖地そして00メンバーにとって第二の家を奪うだけではない。敵は確実に『会いに行くアイドル』の痕跡すらこの世から消したいらしい。
勿論、彼女たちは何も悪いことはしていない。その自覚がある。だが今は何もできない。「歌いたい」、それだけじゃできない窮地にいた。だって、その場所すら……。
「…………、00」
「「？」」
「……このまま、終わっちゃうのかな」
想いだけではどうにもならないことも、もしかしたらあるのかもしれない。最も後輩の77期、真琴が言ったことはみんな心のどこかにあった。あえて言葉にせずにいた。本当に終わってしまう。それが嫌で嫌で、考えたくないから。
異なる思想を強いられたから「じゃあ夢は諦めよう」なんて、なるわけない。誰が好んで他人の考えを肯定し、そのために自分を犠牲にしようなんて思うのか。……だけど、
「襲名、したかった」
友織鈴「「………………」」
「わたしたちも、選抜に入りたかったね……」
「うん……」
「わたしたちもです」
研究生がステージに立つ方法のひとつであり、最高の形。襲名。かつて目にした輝きに惹かれて故郷の星を飛び出した者、大切な家族に別れを告げて夢を追いかけた者、勇気を出して手を伸ばした者……ここまでの道のりはきっと様々だ。
天井を見上げるきたりえもポツリ。彼女もあきちゃも、織音たちも。ここにいるのは、総選挙で選ばれなかったメンバーだった。同期や後輩が選ばれて悔しい思いをした者たち。
00になって終わりじゃない。彼女たちには「この先」がたくさんあるはずだった。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年10月22日 13時
