059# それぞれの休日・後編 ページ9
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鈴子は考えるように口元に手を、楚方はまだおへそを押さえながら寮の階段を降りていた。S.クワドラプル。おへそ。悩みの種と心配事をそれぞれ口に出したとき、廊下の死角から話し声が聞こえてきた。
声の主に見つからないようにそろりと様子を窺うと、そこにいたのはツバサ。通話中のようだ。
「えっ、先聖センセイが？ ……そう、分かったわ。すぐ向かいます」
先聖センセイ。鈴子はカチャリと眼鏡をかけ直す。
00マニアとしてここは引けない。彼女は決めきれない楚方の手を引いてツバサを追いかけることを選んだようだ。……おへそを天秤にかけて。
「やだよ〜。そなたね、おへそのこと意外と大事かなーって思ってたからぁ！」
「お風呂付き合ったでしょう……！」
「いや、おへそ……やだあぁぁ！」
鈴子に引っ張られるがまま、結局楚方もツバサを追いかけることになってしまった。
一方その頃。友歌と織音はともちんと一緒に寮を出て歩いていた。街から少し外れた静かな住宅地。若葉がサワサワと風で揺れていて、なんだかとても長閑なところだ。
ひとり一つずつトランクを持っていた。もし研究生に出会えなければ、ともちんは三つを一人で持っていたと思われる。
「ごめんね、手伝ってもらって」
「気にしないでください！」
「はい」
ずーっと続く長い塀が途切れたとき、ともちんが立ち止まる。ここ、と二人を促して見上げた先には、洋風で先が槍のように尖っている黒い門。その隙間から瓦屋根の大きな家が見えた。
まるで広すぎる庭には川まで通っている。公園みたい、と織音は言う。すっかり圧倒されながらともちんに着いて歩いていると、進行方向から着物に身を包んだ綺麗な女性がこちらへやってくる。
「
「うん」
「「あっ、お邪魔します！」」
友歌と織音は目を見張る。風貌に見とれてしまっていた。数秒遅れて恭しく頭を下げる。ともちんの母親はともちんにそっくりだった。
すると、また新たに家の方から二人歩いてくる。
「あ、研究生？ 77期生か」
「まあまあ。可愛らしい」
「ともちんさんがいっぱい……！？」
二人は全員の顔を見てこれまた驚いた。ともちんにその母親、あとはお姉さんとお婆さんかな。みんな顔がそっくりだったのだ。
いくら家族とはいえ、ここまで似ることなんてあるんだろうか。そう思うほどには。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
