058# 昔話と核心 ページ8
▼TAKAMINA
「ここまでお金と時間をかけて育てた娘が、母が望む第一志望の高校落としたらそりゃ失望されますよねぇ」
「笑うとこなのそこ」
へらり、とAは笑んだ。いやいや、全然笑えないから。寮を出て束の間の休み時間。他の00メンバーがいない場所では、たまに自分のことを話してくれる。
けれども今まで聞いた全てがウチには馴染みがなくて。ウチを頼ってくれるこの子の力に本当になれているんだろうかと若干の不安を覚え始めていた。
だって、寂しい思いをしてきたと思うのに、全然そんなこと言わないんだもん。それが日常で、今の非日常がとても楽しい。そう語る。
「寂しくなかった？」
「……寂しい、ですか？」
ストレートな言葉がつい溢れてしまった。Aは首を傾げ、うーん……と記憶を巡らせているように考え込む。
少しして紡がれた返事は「わかりません」の六文字。彼女は続けた。
「あのときは母に見限られたら終わりだったんで。付き合い悪くて友達が離れるよりも、母の目が逸れることの方がよっぽど恐怖でした。まあ辛くない……と言ったら嘘になりますが」
「こんなこと聞くのもどうかと思うけど。お母さんのこと、好き？」
「……もしそうなら相当頭イカれてますよ」
一瞬だけ。本当に一瞬だけ。Aの目が冷たく見えた。
遠くを見るようにウチから目線を外し、軽蔑するような目。これはウチに向けられたものじゃない。分かっているのに、ゾワリと体が強ばった。
口元をナプキンで拭って一息。「もういいですかね。家族の話をするとすごく疲れるんで」と言った。そもそも始めたのは彼女だがそんなことを言うほど無神経ではない。
「………………」
「あ、電話？ 出ていいよ」
「後で折り返すので大丈夫です。今はたかみなさんとの時間を邪魔されたくないので」
「そう？」
テーブルに置いていた携帯。Aは突然の着信に顔をしかめる。相手の名前が表示されていたようだから知り合い？だと思うけど……。
彼女は残り少ないマンゴージュースをジューっと一気に飲み干した。氷でグラスは冷え、水滴を帯びている。空いた皿の上に垂れる雫。なんだか泣けないAの代わりにも見えた。
「じゃあ次はAの買い物だね」
「それが終わったらたかみなさんの私服買いましょう。今日のコーデもですけど、いつも微妙にダサいですし。私が選ぶんで」
「おうおう、ハッキリ言うじゃん」
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
