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クワドラプルは四という意味。Sが四回。鈴子は手がかりを見つけたようにハキハキ喋りだした。さっきまでの沈黙が嘘のようだ。
まゆゆが言っていた「先聖センセイ」。これをアルファベットに直すと、Sが四度使われている。確信しそうになったとき、背後から誰かの手が伸びてきて歌詞を奪う。楚方、そして鈴子が目で追うとそこにいたのは……。
「ゆきりんさん？」
「ダメですよ」
「ええっ？」
「S.クワドラプルについて調べることは、襲名メンバーにも禁止されているんです」
いつも優しい笑顔のゆきりん。だが、この時は諭すように眉をしかめて歌詞帳を閉じた。これ以上はいけない、と言っているようだ。
禁止。もし破ればどうなるのか。AKB0048は自分にとって命、そして現在正に襲名してステージに立っているゆきりんが相手のため、鈴子は恐る恐る尋ねる。
「あぁ、破ったら………。おへそ、取られちゃうんですよ」
「おへそ……？」
ゆきりんは鈴子から目を逸らして考えるような仕草をした後、両手で自身のおへそを押さえながら言い放つ。嘘っぽいが否定するのは憚られた。
それに対して楚方は本気でビビってしまい、目が覚めたかのようにおへそを押さえる。寮ではゆきりんが目を光らせている。もうここでの考察はできないと思った鈴子はCDを元の場所へ戻し、楚方とその場を後にする。
しかし。彼女はまだ、諦めていなかったのだ。
▽
時刻も正午を過ぎた頃。私とたかみなさんは靴や服どころか飲食スペースなど、多くのお店があるいわゆるデパートにいた。
昼食が脳裏によぎるようになって、たかみなさんに「何か食べよっか」と促されたのだ。各々食べたいものを注文し、空いている席に向かい合わせに座る。
「外食久しぶりです」
「へえ、いつ以来？」
「……ああいや、船でもバイキングは堪能しましたけど。それを除いたら小学校に入る前とか？」
私はそれが当たり前だからなんとも思わない。だから、たかみなさんが大袈裟に驚いているように見えた。他の家庭はもっと行くものなのかな？
うちは、母親が騒がしい場所は嫌いだからって理由で休日もそんなに外出する習慣がなかった。しかも休日といえば……勉強？ 塾も行かされたし、通信教育の問題集もこなさないといけないし。遊ぶ暇なかったもん。
家に友達呼んでいいかと聞いたら、えらく怒気を含んで駄目だと言われたこともある。
「それマジ？」
「です」
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
