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▼SAE
物分かりが早い。よく回転する頭。Aさんがそういう人なのは、たかみなから聞いてはいた。けど、まさかこんなストレートに来るとは思わなかった。勘が働く子である。
彼女は首を傾げる。自分はおかしなことは言ってない、という様子だ。何重の壁をぶち抜いた発言とは思ってないらしい。
「深読みしすぎ。佐江には、アンタを見ててくれって頼んでいただけ」
「つまり、燈のことは成り行きで知ったと。愚妹どころか家族のことはたかみなさんにしか話していないのに、さっきもあまり驚いていませんでしたし」
「……ごめんね？」
「謝る必要ないです。気を遣わせてしまってすみません」
ゆきりんや彼方さんにも聞いていたけど。本当に礼儀正しいんだな。どんなときも「ありがとう」と「すみません」って、感謝の言葉を忘れない。噂通りだ。この子が自分の一つ下だなんて信じ難い。
甘えるつもりはないけれど、怒っていないと付け加えた言葉も真実だろう。
「……それで、大丈夫？」
「全然平気です。言いたいことは言ったし、キララも輝いてくれたので自信にも繋がりましたし」
「まあ……昨日の笑顔見たら落ち込んでいるとは思わないけど」
「そのこと、みんな言いますよね？ 私、自分の笑顔が良いなんて思ったことないのに」
たかみなと活き活き会話する彼女に安心して一息つく。……あ、そうだ。ツバサさんに言われた伝言を忘れるところだった。
Aさん、と呼ぶと、すぐにこちらを向いてくれる。
「あなたに仕事の話が来てるけど、どうする？」
「……へっ？」
少し前、こじはるに聞いた話だ。Aさんと私が並ぶと凄くいいとかなんとか。抽象的すぎてそのときはすぐ頭の片隅に追いやられてしまったけれど、昨日の握手会の後にツバサさんに言われた。
『佐江にモデルの仕事が来ていた雑誌から、急にモデルが一人足りなくなったと連絡を受けてね』
『え、はい』
『先方がAを指名してきたわ。こじはるが、あまりにも推すものだからって』
受けるかどうかは本人次第。加えて、期待に応えて今後も仕事をもらえるかも彼女次第。でも……
「その話、受けます」
チャンスを掴まない選択肢は、彼女にはないようだ。たかみなの言う通り、プレッシャーに怯むような子じゃないんだな。
「それいつですか？」
「今日の昼過ぎかな」
「えっ、すぐじゃん。何時間後ってノリじゃん」
けれど一応、緊張はするらしい。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
