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「Aさんは、昨日まで私服を悩んでいましたが」
「鈴子。あーうん、なんとか決まったよ」
自身の魅力をアピールできるのは私服だけ。そう、たかみなさんが言ってたし。個人のアカウントに写真も投稿してるし今更女子の塊みたいな服装選んだところで、だ。
けどまあスカートにした。台形で膝上の黒無地だ。ポイントは左足に編上げのリボンがついてること。これに白のノースリーブを合わせて、
ネイルもしたし、最近お気に入りの綺麗めなシルバーのリングも装着。織音と智恵理が髪を下ろしているから、被らないように結んだ。あ、入場前に自撮りしなきゃ。投稿用に、
「……あっ、ごめんなさい」
賑やかな空気が風が止んだみたいに止まる。声の方には織音。組み立て式のテーブルに、ペットボトルのお茶がこぼれていた。彼女はすぐ近くにあった布巾で拭きに入る。
よかった、服は汚れていないらしい。凪沙が駆け寄って大丈夫か声をかけた。ここから織音の目は見えない。でも右手は少し震えているし、少し空いた口元からは歯を食いしばっているのが分かる。
「さあ、そろそろ時間よ。織音、行ける？」
「……はい」
静まる控え室の中に戻ってきていたツバサさんがパンパンと二度手を叩いて、私たちを現実に引き戻す。織音に大丈夫かと訊かないまでも、まるで確認するような聞き方。あ、撮る時間なくなっちゃったな。まあいいか。
凪沙が安心させるように「わたしたち、織音のことちゃんと守るからね」と言うと、楚方が真琴に背後から飛びつく。しかし真琴はそれを避けた。研究生になってふた月ぐらい。楚方の行動パターンを多少予想できるようになったらしい。
「ブツゾウは、そなたとおりねの、立派な盾になるよ！」
「盾言うな！」
「ありがとう、みんな」
智恵理が友歌から借りた服に着替え終わってから、控え室を出て移動する。それぞれ両脇にはガタイのいい、身体に黒いスーツとサングラスを合わせたSPのような人達が立っている。……何かあったときのためである。
前科もある。約7年前、00の握手会で事件が起きた。その名も……AKB0048握手会傷害事件※。ノコギリを持った男が、メンバー2人とスタッフ1人を切りつけて負傷させたとか。
レーンの分け方は、藍花星出身の三人と真琴。智恵理と鈴子、楚方、そして私だ。
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※2014年5月25日のAKB48握手会傷害事件 参考
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
