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▼Orine
電車に乗って移動する頃には手の震えは一旦納まった。だけど、今はみんなと話をするような気分じゃなくて。
ドアの近くに立っていると、いつもより走行音が大きく聞こえた。ふとガラスに映る自分と目が合う。堂々としている襲名メンバーとは違って、まるで
『オドオドしていて気持ちが悪い！』
「………っ、」
.
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイッ」
今日は彼方さんと美森さんとは別行動の日。二人は極たまにあるネット配信の依頼が来たからと、嬉しそうに朝食後に出発していたっけ。
77期だけのレッスン……。牛山先生はいつもより早くから鋭い注意を飛ばしている。
「ほらっ、もっと腰を入れる！」
でも、わたしはなんだか集中できないでいた。指摘も耳からすぐ抜けていってしまうような。鏡の向こうではフラフラとただ踊っていて、智恵理やAのような力強さなんてどこにもなくて……。
あんなこと言われて、当たり前なのかもしれない。そう思ったとき、また鏡の中の自分と目が合う。
踊りも下手で、覇気がない。プロとしての華がない。アンチに言われたことが頭に一層強く響いた気がした。
「！ …………っ、」
「何ボケっとしてるの、織音！」
足がもつれて尻もちをついてしまった。牛山先生にすいませんとすぐに謝った。けれど、立ち上がることが何故かできない……。
みんながわたしを注目していた。どうしてだろう、どうして。みんなからの視線には何ともないのに、たった一人のアンチにはこんなに恐怖を感じるんだろう……。
「いい加減にして」
「えっ」
「あんなことくらいで動揺して。そんなことで、襲名メンバーになれると思ってるの？」
わたしを見下ろすのは、誰よりも真剣に練習している智恵理。襲名……さしこさんを襲名。でもわたしは、さしこさんに相応しくないって言われて。
レッスンにも身が入らなくて。もう、ぐちゃぐちゃだ。込み上げる涙を止められない。
友歌がいつものように、言い方がキツイと智恵理を注意してくれたけど……わたしにはもう耐えられなくて。思わずレッスン場を駆け出してしまう。声を上げて一人で泣きたかった。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
