074# 初めての、 ページ24
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そもそも上から下まで揃えられるようなお金をそんなに持っていない。結局みんな、何も買わずに早々に寮へとんぼがえり。
ゾロゾロと出かけた割にはちょっとウォーキングに出ただけと言っても過言じゃない。時計の針はお昼を過ぎそうだ。リビングのソファに再び身体を沈める面々。
私は一人がけのチェアに座っていた。友歌が凪沙を指差し「制服だけはやめなよね」と言い、凪沙が「なんで？！」となんの疑問も持っていないというやりとりを聞き流す。
「郵便来てたよ。ほら、見てみて。おりねにファンレター！」
楚方はトイレに行っていたはず。郵便受けをチェックしてくれた誰かにでも、77期宛のものを渡されたのだろうか。それより仲間に届いた初めてのファンレターに彼女も嬉しそう。
服に悩むメンバーもそれを忘れたかのように背筋を正す。中でも、届いた張本人である織音は特に顔を綻ばせていた。
「すっごい織音！」
「そんな……わたし、まだお披露目も」
「あの研究生のプロモ見てくれたんじゃない？ 織音、青田買いされたんだよ！」
凪沙の言う通り、たしかに凄い。プロモを公式から公開してまだ数日しか経っていないはずだ。なのにもうファンレターが届くって。一目惚れの速さだ。そんなことあるかな？
どちらにしても気になるので、みんなと同じように私も織音に近寄った。彼女は流行る気持ちを押さえながら封を開ける。ピンクの封筒にピンクの四葉のクローバーのシール。一見悪意は無さそうだ。
「あっ、手紙じゃなくてデータだ」
「じゃあ、携帯で再生しよっか！」
友歌が自身の携帯を取り出し、さっそく接続。ピッピッとタップしたら映像が出た。マスクで顔を隠した少年が映った。なんだか薄暗い部屋だ。
けれど初めてのファンレターという楚方から飛び出したワードで、織音はそんなこと一切気にならないらしい。ええ、怖いって。推しにビデオレター送る割にはマスクも怖い感じだし……。
『 藍田織音さん。
……………勘違いした愚かなメスブ夕 』
少年は初っ端から汚い言葉を放ち、右手をあげる。その手は織音似の人形が。首を絞めるように掴んでいた。
どんな言葉を言われるのだろう。初めての織音のファンは織音のどこを好きになったのだろう。彼女達の期待は最悪の形で呆気なく裏切られる。
やっぱりそうだよね。ファンなんて、簡単につかないよ。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
