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▼Nagisa
貴重なお休みももうすぐ終わりそう。明日からはまたレッスンが始まる。優子さんはもうちょっと撮ってから帰ると言って「気をつけて帰んな」と私たちに告げながら路地の日陰の方へ行ってしまう。
手を振り返していたとき、ある想いがストンと落ちてきた。それは、優子さんの姿が見えなくなってふと口から零れる。
「………わたし、優子さんになりたい」
「えっ？」
「わたし、優子さんを襲名したい！」
智恵理はわたしの突然の発言に驚いたみたい。そしてもうひとつ。わたしが大島優子を襲名するならば、さっきまでここにいたあの人が卒業していることを意味する。そのことが頭から抜けていた。
優子さんに卒業してほしいわけ？ 一度に同じ名前は襲名できないでしょ。智恵理に言われてハッとする。
「そ、そうだったよね。優子さん居なくなったらやだもんね。智恵理も、優子さんのこと好きなんだ」
「……優子さんのダンス、すごく
褒められても赤くならない。智恵理が頬を染めてまで嬉しそうなところは再会してから一度も見たことなかった。
けれど、優子さんの踊りは格好いいと素直に言葉にした今だけは。わたしと智恵理は、同じ想いを持っている気がした。優子さんっていう共通の「憧れ」、そして「好き」。繋がっているように強く感じた。
..
夜が近いことを知らせるように街灯が点きはじめた。とある屋台の飲み屋。座席にはツバサ、そして牛山の姿がある。
近くの茂みからは、鈴子が二人の様子を観察している。まさか、S.クワドラプルは牛山先生？ ……と、ひとつの仮説を浮かべているなんて気づく素振りもなく。牛山はコップに入ったお酒に口をつける。
「でもさ、あんな男信用しちゃダメだってわかってたけどさーあ。……ほら、愛って慌てん坊じゃない？ 女なんだもん、仕方ないわよね」
「貴方、男でしょう」
「やだ！ 女心ってことよ」
牛山先生＝S.クワドラプル？ ……は無さそうだ。鈴子は早々にその線はないと断定した。
楚方は息を潜めてツバサたちを観察することに既に飽きていて。野良の黒猫を見つけたらしい。人懐こくて、楚方が抱えあげても大人しい。鈴子に見せに行くも「ソナティも猫さんも静かに」とやんわり注意される。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
