092 :♪ ページ42
▼Orine
さしこさんを襲名したい。そう言ったわたしに、以前Aは聞いてきた。今の自分に、すぐにでもそうなる実力と覚悟があるかって。
今回もそれは否定する。入ったばかりのわたしなんか、さしこさんどころか彼方さんや美森さんの足元にも及ばない。……でも前回とは違う。アンチがどういう存在か、分かったから。
踊りが下手なら、誰よりも多く必死で練習すればいい。オドオドしてると言われたら、胸をピンと張ればいい。アンチは怖いけれど………優しい存在なんだ！
▽
「はぁ、はぁ………」
戦いはDESの撤退によって幕を閉じた。
やっと終わった、そう思ったら急にその場にしゃがんでしまう。ずっと緊張状態だったらしい。マイクサーベルを離した手が少し震えている。ここでやっと、自分も少しは怖かったんだと悟った。
辺りを見回せば、凪沙や真琴なんかも髪がボサボサだし服も薄汚れている。スカートの裾が足りなくて膝が見えるメンバーは、微かにそんなところまで戦った跡があった。こりゃ、顔も泥臭いかもしれないな。
「よかった、みんなも無事で」
「織音…」
「おねえちゃん！」
よっこいしょ、とは言わないまでも。同じように疲れているはずの彼方さんが私に手を貸してくれる。それを取って立ち上がり、同期のところへ。
すっかり吹っ切ったような織音が合流すれば、友歌が安堵した。その直後、織音のことを小さな女の子が抱きしめに来る。彼女はいちばん最初に握手に来てくれた子だった。
「すっごいかっこよかった！ あのね！ おねえちゃんのカード出たら買うね！」
「！ …………わぁっ、ありがとう」
その瞳はキラキラしていて少し眩しいくらい。まるで憧れのヒーローを見ているかのようだ。嬉しい気持ちが伝染したのか、織音まで顔を綻ばせている。
織音にとって、これ以上の賞賛の言葉はないだろう。そんな彼女の肩を友歌がポンポンと叩く。促した先には、覆面を被ったあの少年がいた。織音のことを見ているように見えた。
こちらが気づくと、少年は背を向けて一目散に去っていってしまう。………そういえば、あの子がいない。もう帰ったのか。別に再会したところで話すことなんかないが………。
「せーの、「「るーりんちゃーん！！」」」
「……ん？」
背後から呼ばれて振り向くと、そこにいたのは握手に来てくれた人たち。DESが来た際にその場にいた人もいる。
彼らは両手をメガホンのように顔の前で構えた。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
