709 :♪ウッホウッホホ ページ9
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よく伸びる、透き通った歌声。ここにいるみんな……フンギーたちも。表情は変わらないがミュートしたように威嚇が停止する。数秒だけ、一瞬のワンフレーズ。それだけだけど、この場の空気を支配した。
彼女は衣装の袖を肩までまくる。才加さん……？
「相手は人間じゃないんだ。言葉が通じなくて当然さ。でも、アタシたちには……歌がある！」
そのままマイクに手を伸ばす。才加さんの火の玉型のキララは、まるで太陽のようにボッと燃え上がった。本人の熱い心が具現化したみたいだ。……そうだ、そうだった。私たちは何度もこうして想いを届けあってきたはず。
私も自分のマイクを握り、口許へ持っていく。すると音楽が流れる。もちろん『ウッホウッホホ』だ。メンバー用にカスタマイズされたLASは戦車と戦闘機を合わせた特性のほか、ライブ支援機能も併せ持つ。
おそらくフンギーは、芸能もアイドルも知らない。けれど楽しいとか嬉しいとか。そういう感情は人間だろうと別の生物だろうと変わらないと思う。ちゃんと持っているだろう。
歌うと楽しくて、聴いてると心が満たされて、想いを伝えあえる。人間は人間でも、君たちを害した人間とは違う人間だ。それを分かってほしい。私たちは何もしない、何も奪わない。大切なものを、このまま大切にしたいだけ。
「フンギアアアアッ！」
「モッフモッフフ〜」
未知に相対したとき、普通は警戒する。大人のフンギーたちが威嚇をやめてくれないのは想定内。……しかし、子どもというのは好奇心が旺盛だ。それはやっぱりモフフと同じ子どもたちも同じらしい。楽しいものだと知れば体を揺らしたり、飛び跳ねたりしている。
伝染するようにひとり、またひとり。マイクを持って歌い始めた。悲しかったのは君たちだけじゃない。私たちもだけど、そうとも言わない。生きていれば誰しもに起こること。試練のようなものだ。
織音が歌いながらまたフンギーたちに近寄っていった。あれはモフフかな？ 目の前までやってくると、織音は優しく頭を撫でた。ツバサさんが集めた証拠の中には、ゾディアックの者が幼体の耳を掴んで宙ぶらりんにし、集中砲火している写真もあった。それと織音の手は、まるで違うよ。
「モフ〜モフフ〜、モフ〜♪」
「…………！」
Bメロの最後のフレーズで、織音の花型のキララが一際強い光を放つ。さあ、もっと歌おう。もっと楽しもう。
呼応するように私たちのキララも輝きを増していく。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年11月16日 23時
