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気持ちの整理はついたのか、突然パッと顔を上げるみぃちゃん。気が抜けすぎて「たかみなに言われて来たのに、あたしの方が励まされちゃった」なんて、余計なことまでベラベラ口にしてしまっている。
やっぱりたかみなさんだったか。なんの意外性もなかった。沈黙する私と視線が再度絡めば「あ」。あ、じゃなくて。もう遅いよ。別に気にしないが短く息をついた。ちなみに呆れているわけではない。はいはい、という感じ。
「こんな薄情な人間なんか気にしないでいいのに」
「……薄情？ それ、Aのこと言ってるの？」
「そうだよ」
今度は本当に深いため息。みぃちゃんは私の言葉にビックリしていた。その視線が刺さるのを感じる。薄情とは人情に薄いこと、思いやりの気持ちがないことだ。
……だったら、私はオーディションに合格できないって？ うん、受かったときにツバサさんの話を聞いて思うところが無かったかと聞かれたら嘘になる。
当時は分からなかったけど……秋葉星に来て、みんなと研究生として活動して。お仕事や公演、イベントに参加させていただいて、なんとなく理解してきた。私は、みんなが当たり前に持つ感情を殆ど経験したことがない。智恵理に仕事を取られ、それで初めて『悔しい』を知った。
そんなわけないじゃん。嬉しいことなら総選挙、悲しいことなら秋葉星への襲撃とか。物事を難しく考えすぎだと、いつも【君ガチ】でも言われる。でも、私には理由がわかんない。研究生になる以前は、感情を抑え込まなきゃ呼吸さえできないほど息苦しかったから。
「今も。凪沙と智恵理が行方不明なのに自分のことしか考えていない。同期なら、仲間なら……心配するのが普通の反応でしょ？」
「…………それは、」
みぃちゃん、答えにくいこと言ってごめんね。長年の慣れは恐ろしいもので。誰かが涙したり、声を荒らげたり。見かける度に『羨ましいなぁ』と呑気なことを思う。
感情のせいで辛くて苦しいことが多かった。涙が出る穴を涙腺といい、涙脆い人のことを「涙腺が弱い」なんて表現するが私はその逆。感情が出る穴がもしあれば極端に小さいかもしれない。
物心がつく頃には既に妹が生まれていた。私の英才教育が始まる。できても褒められず、当たり前。できなかったらできるまでやらされる。そんな生活だったから……
「私はね、今では良いも悪いも全部殺しちゃうの」
なんで心配するのか分からない。
こんな私なんか、大事にしなくていい。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年11月16日 23時
