609# また ページ9
▼TAKAMINA
前を向いてばかり。後列の仲間を一度も振り返らず、優子は軽快に走ってレッスン室を後にする。ドアがバタンと閉じたときもシャッターチャンスと言い、みぃちゃんはパチリ。優子の突然の申し出に牛山先生は眉根を寄せた。
これくらいの練習じゃ足りない。優子はありあまる力を持っている。研究生の頃から知ってるよ。無尽蔵かってくらい、体力も気力もあるんだ。
「優子さん……」
……でも、今のあいつはなんだか。
ゆきりんが心配そうに俯くのもわかる。ウチはその右肩に手を置いた。伝わるかは分からない。けれど、少しでも安心してもらえるように。優子抜きでレッスンは再開される。
そして、練習が終わるときまでも。優子は戻ってこなかった。あいつのことを頭に浮かべていたらゆきりんに呼ばれる。今しがた脳内に住んでいた奴のことが気になるから、一緒に探しに行かないかという誘い。
「うん、いいよ」
他のメンバーが部屋やバスルームへ向かう中、ウチらは外へ。タオルで心ばかり汗を拭いながらチームの真ん中星を探しに。さすがにレオタード姿で遠くには行かないか。じゃあ通路かも。
夜になるとガラスには景色が反射する。そこらで練習している可能性がある。ゆきりんが階段を駆け下りるのを追いかけた。…………あ、見つけた。
「！ 優子さn……んんっ！？」
「シー……」
優子を見つけて嬉しそう。そのまま駆け寄り、呼びそうになったゆきりんのジャージの後ろを掴んだ。ちょっと待って。優子に気づかれないように物陰に隠れ、ゆきりんの口も片手で覆う。
少しの沈黙。ここまで、優子のステップの足音と息切れが聞こえる。余程集中してるらしい。ウチらに気づく気配もない。……その、ゆきりんを押さえている手を離そうと思ったときだった。ドタッと物音。転んだみたいな。
建物の影からこそり。二人で窺えば、優子が転んでいた。ターンの軸がブレたっぽい。右側に倒れた。…………それでも。必死な顔。立ち上がって自主練を再開。
「練習……」
まるで、あの子のような。それか……。7代目の意志を継いで、センターノヴァを目指していた8代目ゆうこ。練習のし過ぎで膝を壊す手前までいった、咲和さんみたいだ。
当時のことが蘇る。センターノヴァを目指すことで、もし……9代目ゆうこも同じことになったらどうしよう。あっちゃんや咲和さんの道のりを辿る彼女に、そう思ってしまった。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年9月20日 10時
