608 :♪ファースト・ラビット ページ8
▼SU-CHAN(瑞穂)
研究生のとき。選抜総選挙の後まゆゆ先輩のアンダーに選ばれた。同期のみんなや、研究生としてステージに出させてもらえるようになり……練習は自分の力になっている。そう思っていたのは、自分だけだったのだと痛感した。
襲名メンバーの代わり。アンダーとして、先輩たちと公演に出演する。メグがゆきりん先輩のアンダーに選ばれたとき羨ましく思った。彼方先輩に練習がハードと聞いても「いいなぁ」の方が勝っていた。でも、あたしは分かっていなかったんだ。
襲名のレッスンは、研究生のレッスンとまったくレベルが違った。なんだ……まだまだ全然ダメじゃん。つま先から頭の先まで、寸分の狂いなく。360度見られているつもりで。
『ここからが、私たちの夢の始まりだって』
あたしより一足先に襲名した美森先輩、もとい8代目まりこ先輩。自身の襲名披露公演で彼方先輩に言っていたことの意味が、自分も襲名してちゃんとわかった。
襲名して終わりじゃない。ここからが、本当のスタート。夢も努力も。研究生で疲れたなんて言っていられない。憧れの襲名メンバーは、今では同等の仲間。あたしはオリジナルのすーちゃんの志を継いだ。6代目佐藤すみれとして責任を持ち、応援してくれるファンのために輝くんだ。
改めて優子さんやたかみなさん、ゆいはんさん。他にも。先輩たちと比べたらあたしの光なんて全然弱い。飲み込まれ、流されそうにもなる。あたしにはキララがいない。
……でもそれが何？ メグも選抜のステージで、0048劇場のキララを輝かせていた。足りないで嘆く暇があるなら練習した方がいい。
「牛山先生！」
「なぁに？ 優子」
夜遅くのダンスレッスン。肩で息をしているのはあたしだけではないらしい。ずっと前に襲名している先輩たちさえも。それくらいハード。だけど……弱音はもう吐かない。襲名した日、決めたのだ。まだできる。
先生からの指摘で音楽が停止。「遅れてる！」には、お腹から返事をする。再開するかと思えば、優子さんが手を挙げた。……？
「ちょっと……自主練してきてもいいですか？」
「……あら、それって。ワタシのレッスンじゃ、ぬるいってわけ？」
「ごめんなさい。激ぬるです！ ……ってことで、失礼しま〜す！」
優子さん、すごい……。そう言えることもだけど、まったく息切れしていなかった。優子さんは襲名組のエースでありながら、物足りないからと出ていってしまう。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年9月20日 10時
