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凪沙の父親は知らなかったらしい。耳を疑った。上司は重大なことを何も無いようにサラりと話し、耳かきの先に息を吹きかける。「なんだ知らなかったのか」という言葉は本心か、わざとか。
00の本拠地、秋葉星。そこが制圧されたなら、アイドルである娘の無事が知りたくなるのは親としては自然なこと。けれど、その質問には「さあ」。知っているのはそれだけ、というように他人事だ。実際他人事だからだが。
「まっ、すぐに捕まるだろう」
「…………」
「……君ももうすぐ娘さんに会えるというわけだ。当然、刑務所には面会に行くんだろう？」
左手の薬指には指輪が光る。それなのに不快な笑みを貼り付け、同じように大事な家族がいるだろうのに「もうすぐ会える」「刑務所へ面会に行く」。酷い言葉を平然と並べる。それには言い返さない。
ぐっと我慢した。内心は気が気でない。……このタイミングでの異動の知らせ。彼は色んなことを考える。殆どは憶測だ、妻のためにも職を手放す事態は避けたい。娘の無事は気になるが、ひとまず大人しく頷くしかなかった。
同時刻、場所は凪沙と友歌が通っていた中学校。現在はWOTA藍花星支部が基地として居城している。室内はこの天気には似合わず静まり返っていた。ここでも、彼方推しのリーダーが秋葉星が急襲された情報を持ってきたから。
「秋葉星がDESに！？」
「……ああ。もうすぐニュースでも流れるらしい」
岸田美森という研究生が8代目まりこを襲名し、大いに盛り上がったのは記憶に新しい。その空気は一変。まるでお通夜のよう。多くは腕組みをして険しい表情、もしくは生気を吸い取られたみたい。眉を八の字に。
幼馴染の友歌は00の研究生。護は信じたくなかった。葵はそんな彼を心配そうに見ている。こちらも……Aとは加入前からの顔見知り、まどか。その弟・紅音。彼らは携帯を手に取って指をしきりに動かしていた。でも……
「既読にならない……。Aちゃん、この時間帯なら返してくれること多いのに」
「城さんたちにも連絡来てないって」
「……00は行方不明らしい。フライングゲットで秋葉星を退いたなら物資の補給は不可能だ。無駄な電力を使わないようにしているか、手元にそれが無いか……なんだろう」
リーダーの言うことはもっとも。それでも。
この星で素晴らしいライブをしてくれた00のため、推しメンのため。そして大切な人のため。自分たちに何か出来ることは無いのだろうか。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年9月20日 10時
