604# いつもどおり ページ4
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本日、公演後は特に予定が無い。それは私だけではなく智恵理も。ステージを降りたらシャワーを浴びて着替えをして身支度を整える。用意ができたメンバーから最寄り駅へ向かおうと控え室を出ていく。
私も友歌たちと「おつかれさまでした」の一言を添えて退室。普段メンバーは、ファンの方と同じ出入口を使用しない。地下から劇場を出入りする。
「電車遅れるよー？」
「「はーい」」
先に駅に向かっていたはずの彼方さん。右手を振りながら私たちに呼びかける。のんびりしていたら間に合わないらしい。私たちは小走りに。バスを素通りしたところで、背後から別の声。
「待ってくださいなぁ〜」。追い駆けてきたのは先程まで何故か一緒に劇場公演に出演していた麻里子さん……もとい、まりこ様。一部二部、続けてステージに立ったが疲労は見えない。
この光景。まるで、新学期初日に間違って去年のクラスに行くようだ。みんな目を丸くする。多分思っていることは同じ。
「あれ……麻里子さんは襲名メンバーなんだから、車で移動ですよね？」
「私も電車で帰りますわ」
「！ ……麻里子。そう言うの、よくないよ？」
「？」
「襲名メンバーが変に研究生に気ぃ使っちゃあ、……ん？」
最後尾の友歌が代表して訊いてくれた。みんなと電車に帰る。そう言うまりこ様を良いとしなかったのか、彼方さんが彼女の目の前まで歩いていった。
襲名する前の総選挙。あのときのスピーチでまりこ様は、自分のことを『感情を表に出すのが苦手で、モヤモヤした気持ちをつい溜め込んで』しまうと言っていた。名前を受け継いでも気遣い屋は変わらない。彼方さんはそう思ったんだろう。
……でも、どちらかといえば。気遣っているのは彼方さんの方じゃないかな。まりこ様はまたも見透かしている。彼方さんの言葉を遮るように右手の人差し指の先を置いた。その後で、後ろに一歩。
「襲名メンバーも研究生も関係ありませんのぉ〜。私は、私のやりたいようにやるんです！」
「…………」
「……まりこ様が今まで通り研究生とレッスンを受けて、公演にも出る理由。今朝、才加さんから聞きましたよ。ツバサさんにムチャぶりしたって」
まりこ様は腕組み。満足そうに笑い、頷いた。あ、本当なんだ。ちなみに才加さんは葵平先生から聞いたとか。ツバサさんから巡り巡ってここまで届いたわけ。みんな口軽い。
彼方さんは何も言えなくなってしまった。嬉しいんですね。頬が赤いですよ。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年9月20日 10時
