621 ページ21
..
誰にも邪魔されない場所。神聖なる、ポジション0に。何のことを言っているのかすぐに分かった。舞台用語におけるポジション0とは、センターポジションを差す。主役だけが立つことを許されたスポットライトの中心位置。
神聖なセンター。すなわち、センターノヴァ。夢を叶えるために何かを犠牲にする覚悟はあるか。美果子が聞いたのは、そういう意味。優子は息を飲む。
「センターノヴァになるには、孤独を受け入れる必要がある」
「孤独を……？」
「そう」
今度は、誰が聞いても分かるようにはっきりと単語を口にした。センターノヴァになるには。普段のおちゃらけた様子では無い物言い、そして以前そうだった元メンバーからの助言に、優子は耳を傾ける。雫が滴るのなんか気にもならない。
何かを悟るような目には怪しささえ感じる。けれど……センターノヴァ制度やキララにも不透明な点が多い。くすりを飲んだら、副作用で眠くなるのと同じ。何事も良いことだけとは限らない。それでも、欲しいものがある。行きたい場所がある。それならば。
「強く輝く者には、濃い影が付きまとうの」
「……！」
「妬まれ、狙われ、利用されようとし…………。ポジション0は、その全ての逆風を一身に背負う存在」
あの子がセンターに立つせいで推しが目立たない。彼女が前にいるせいで自分の見せ場を作れない。自分も前で踊りたい。センターノヴァと仲良くしておけば、私にもチャンスが増えるかも。 …………。
けれど、その闇すらも自分のモノにできたら。優子は、
「あなたは求め続けた場所に立っている」
「…………」
センターノヴァの前にはいない。他のメンバーは、みんな後ろ。誰よりもファンに近い場所、目立つポジションだ。当時優子がいわゆる二列目以降にいた頃、そこにはいつもあっちゃんがいた。彼女はあの背中に助けられていた。
そして今。選抜総選挙では速報を覆して1位を獲得し、新シングル曲のセンターに輝いた。ライバルもいて、公演もいつも大盛況。 …………でも、満たされない。足りないのだ。
以前、研究生の前で言っていた。「今の場所で満足なんてできない」。今の優子の前には誰もいない……。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年9月20日 10時
