620# 刻一刻と ページ20
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かもしれない。だとしたら。すればいいのに。ifを口にしながらも、彼女たちはたしかに確信に迫っていた。……だが。
本当に知るべきことはそれではない。センターノヴァを産もうとしていたのは、ツバサや美果子だけではなかったのだ。「彼ら」は、こうしている間にも裏で着々と準備を進める。悲劇はすぐそこまで来ていることに、誰も気づかない。
優子は自主練習を切り上げると、ひとりシャワー室へやってきた。もう夜も遅い。広いバスルームでは声が反響してしまうと思ったんだろうか。なりたい星をしっかりと見据え、空き時間全てをつぎ込む彼女は……先客がいることにも気づかない。
ふたつ空けて向こうにも、シャワーを浴びていた者がいた。元センターノヴァ、今では専属カメラマンの美果子。彼女もシャワーの水音と考え事で、優子が入ってきたことをすぐには分からない。
何を考えていたのかといえば、もちろんセンターノヴァのことだ。消えたメンバーはどこへ消えたのか。もしまた会えるとしたら、それは…………。先の考えはない。鼻歌が聞こえてきたからだった。それは、優子の声。
「ふふ〜んふ〜んふふ〜んふふ〜ん」
ふふ〜んふ〜んふふふふ〜ん。……この曲は。美果子の頭にはすぐに曲名が浮かんだ。そして、こんなところで会うなんて。優子がセンターノヴァを切望していることは誰もが知っている。…………。
かつて、AKB48 チームKへの応援歌とも言われた曲。優子は更に自らを鼓舞する。自分の世界に入っており、背後から近づく影にはまったく気づかない様子。だから、肩に触れたときは正に衝動。
「ふんふんふふ〜ん。ふ〜ふふ〜ふ〜ふふ〜ん」
「た〜いよ〜うにやか〜れ〜♪」
「！？ うわっ！ びっくりしたぁ……」
「へっへー！ やっぱり若い子の肌は違いますなぁ、水弾いてる！」
目を開いて羨ましそうに凝視する美果子。とりあえず優子はシャワーを止めた。首から上だけ振り向いて「ちょ……みぃちゃん！ タオルくらい巻きなよ」。ここはシャワールームで、こんな時間に浴びに来るメンバーなんてほぼいない。とはいえ刺激的な姿である。
しかし彼女は、肩に置いた手を離しはしない。当然タオルにも手をかけない。それどころか歌詞の続きを口ずさむ。こどくはいつでも…………。目を瞬く優子に、今度はやけに真剣な声色で問いかけた。
「あなたは、大きな代償を払ってでも……あの場所に行きたいと願う？」
「えっ……」
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年9月20日 10時
