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センターノヴァの目の前にはお客さんだけ。メンバーを背にして、最前列で愛を歌う。だから私の視界にはいつもあいつがいた。普段は隣、ステージでは前。美果子には負けたくない。そう思いながらも、彼女の前に立つイメージが湧かなかった。
知らないものは想像できないんだ。だからどういう気持ちで立っていたのか、メンバーが見えない場所で何が見えていたのか。センターノヴァになれなかった私は分からずに終わってしまう。
すごいね。聞きながら移動していたら寮まで来ちゃった。それからレッスン後の牛山先生と明日のことを話し、今度は見送ろうと玄関の方へ。すると、今度はヒソヒソとたかみなと柏木の話し声がきこえてきた。
センターノヴァになるにはきつい練習と強いメンタルが必要。それは私だってわかってる。だけどその先に唯一の栄光があるのなら……乗り越えて、掴む。当時の私は迷わずそちらを選ぶだろう。9代目がそうであるように。でも。
「センターの前には誰もいない。あの頃はいつも、
「………………」
「本当、むかつくわ」
対等だと思っていた奴にそう思われるのも、私を保護対象とした美果子も、それに気づけない私も。全部。私がセンターを獲りたいと渇望しているのを彼女も知っていた。
でも「復活させるなら妨害する」ならば、センターノヴァには何かあるのかもしれない。美果子にとっては人が羨ましいと思う場所じゃなかった。そう思う何かが見えていたのだとしたら。…………消えたくない。
だから、何の予告もなく卒業をしたのだとしたら。
「それならそうと言えばいいのに」
「言えなかった……、んじゃ。無いですか」
「……私の夢を壊してしまうのなら、そうするね。ヘラヘラしてるように見えるけど、誰よりも人の痛みが分かる奴だから。私が傷つくかもしれない。だったら話さないと思う」
センターノヴァというポジションは常に狙われる。総選挙による新シングル以外の全曲でセンターを務めることに、不満に思う者も当然いた。私も、少しは妬んでいたかもしれない。彼女は好意も悪意もすべて背負って立っていた。
人の痛みが分かるからこそ頼られる。たかみななど後輩が相談する光景も多く見かけた。私も何でも話していた。……そういう奴ほど、自分自身のことは中々人に話せないというのに。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年9月20日 10時
