1人よりも…① (ページ29)

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「松本くん。」

「…あ，おはようございます。これ，ありがとうございます。」

頭を下げると，
山元さんは，顔の前で手を振った。

「いえいえ。松本くんも初日の時に差し入れくれたじゃないの。でも，これ，あんまり好きじゃなかった?」

「……え?」

「だって，食べないじゃないの。」

笑ってそう言う山元さんの瞳が，不安げに揺れる。

「あ，いえ!そうじゃなくて。これ，なんだろう，って考えてたんです!」

頭に重い痛みがやってくる。

あ，やっべ……。

喉が，乾燥してきた……。

「これはですね，サンドイッチです!下町で今人気のお店なんですけれどね。」

…ぁあ…しやがれの特集で，やったな…。

怪しい記憶の中で，なんとか思い出した。

「ぜひ，食べてくださいね。」

「ありがとうございます。」

山元さんが，その場を去ってから，
包みを手元に引き寄せた。

そういや…朝は，なんも食べなかったんだよな…。

正直，今朝は何も食べたくなかった。

それだけ，食べ物を体が受け付けなかった。食欲がない以前に，なにも口にしたくない。

でも…な。

「けほっ，けほ!」

我慢していた咳が，出てきた。

軽くトントンと胸を叩いていると，

「潤くん，おはようございます!」

元気な声が聞こえてきた。