大人(1) ″ みの ページ5
こんなに寒い冬の夜でも、ベランダで煙草を吸っている。「夜空を見ながら吸うのが好き」なんて言ってたっけ。夕飯の食器を片付けながら、後ろ姿をそっと眺めた。
「 かっこいい、なあ…… 」
10歳くらい歳の離れた彼。大きな瞳に高い鼻のくっきりとした顔立ちに、犬のようにもふもふな髪の毛に、見上げる必要がある高い身長に、紳士的な優しさに。全部に惹かれて、私は猛アピールをした。
今でも付き合えていることに実感が湧かない。
彼はすぐそこにいるのに、なんだか遠い存在に感じてしまう。だってこんなガキの相手をするわけがない。みのさんは、かっこよくて立派な大人だ。
『 洗い物手伝おっか?』
「 もう終わるから大丈夫だよ。」
洗い物をしていると、後ろから抱きしめられた。少し冷たくなった体。寒いなら、無理せず部屋で吸ってもいいのに。どうして頑なに外で吸おうとするのだろう。
「 外寒くなかった?」
『 ちょー寒いよ。』
「 部屋で吸ったらいいのに。」
返事がなくて後ろを振り向くと、優しい笑顔で私を見つめていた。顔がじわじわと熱くなる。鏡を見なくても、赤面していることが分かる。
『 かーわいい、』
それだけ言い残して離れていった。
洗い物を済ませると、みのさんが部屋にいないことに気が付いた。周りからもヘビースモーカーと言われているくらいよく煙草を吸っている。
ベランダで吸いながら、今度は誰かと電話をしていた。女の人だったらどうしよう。
信用していないわけじゃない。ただ年上の余裕があるのが怖くて。私が出かけると言うと、すぐ送り出してくれるんだ。心配とか嫉妬とかしないのかな。寂しさが溢れてきて、私もベランダに出た。
『 それでさ……
A?どうした?』
みのさんが振り向く前に、たくましい背中に抱きついた。優しい声をかけられると泣きそうになる。
〈 なに?Aちゃんと
イチャイチャしてんの?〉
電話の向こうから聞こえてきた声は、ジョージくんだった。なんだ、勝手に一人で不安になってしまっていた。それからすぐに電話は終了した。
『 …煙草臭くない?』
「 え、うん、」
正直なところ私は煙草の匂いが苦手だ。煙たくて、咳が出てしまう。頬を寄せたみのさんのシャツには、煙草の匂いが微かについている。でも嫌な気がしないのはなんでだろうか。
『 寒いし部屋入ろっか。』
煙草の火を消すと、そう言った。
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作者名:みるく | 作成日時:2018年7月15日 11時