. ページ6
｢たまに考えるんだ。｣
突然の事だった。
グルッペンさんがそう口にした。
｢俺は今年度で卒業、親は俺を後継ぎとして考えている。
もしそうなるとするならば、ここを離れなければならないだろうなと。｣
初めは｢あの家に皆を寄せ集めた寂しがりのグルッペンさんがそんな事考えるなんて...！｣と驚きしかなかったが、最近仕切りにこの言葉を言い出すようになってからは驚くことも無くなった。
彼が何度もそう口にする理由なんてたかが知れてる。
いつかそうなる運命であることを自分に言い聞かせてるのだと。
｢もし、俺と離れる事になったら、お前は悲しんでくれるか。｣
『...悲しまない人なんていますかね、
皆グルッペンさんが大好きだから。』
そう宥めると、彼は必ず目を大きく見開く。
｢はは、そうか。
Aは俺が大好きか。｣
『あの、私だけじゃなくてですね、』
｢ああ、分かってる。ありがとう。｣
キラキラと綺麗に潤う瞳を細めて私を見据える。
時々彼は消えそうな程に儚くなる。
『例え離れても会いに行くことだって出来ますから。』
｢そうだな。必ず会いに来てくれ。｣
＿＿＿＿
｢あ、Aちゃん、良かったー探しててん。｣
空きコマに、図書館で研究課題をしていた時、ふと肩にポンッと手を置かれる。
『ああ、鬱君、今日は一限遅れずに行けたの？』
｢あはは〜、やっぱ俺Aちゃんに起こして貰わな起きられへんみたいやわ〜、今来たとこやで｣
まるで語尾にハートを付けたような彼の甘い囁きにはノらない。
『まぁ、鬱君が損するだけだから私にとっちゃどうでもいいんだけど。』
｢ねぇ怒ってよ...、｣
がっくしと肩を落とす彼のつむじに、何の用かと問うと、そうやそうや、家に俺の携帯無かった？と鞄をゴソゴソさせながら言う。
何だそれだけか、と、見てないという旨を伝えると、私はイヤホンを取り出して片耳に取り付けた。
｢ちょっと、待ってや。
ここで会ったってことは俺も空きって事やん。
良かったらそこらへんのカフェでも寄らん？｣
もう片耳のイヤホンを持っていた手を彼の細くありながらほねぼねとした手で掴まれた。
『この課題今日までなの、ごめんね。』
｢...あっそ。いーもん、アリサちゃんと遊ぶから〜｣
チッと酷く小さい舌打ちをかまして大袈裟に靴を鳴らしながら、彼は去っていった。
お生憎様、私はあんたのアソビに付き合う女じゃないのよ、なんて、着飾った彼の背中を睨んでやった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蜥蜴ｻﾝ | 作成日時：2020年10月25日 3時
