≪ 神々の悪戯 ≫ 神あそ短編集 (ページ1)

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繋げない。　【月人】ページ1

「戸塚尊。女性と手をつなぐ場合、どうしたらいいものかご教授頂きたいのですが」

帰宅後、いつもと変わりない夜独特の静けさが辺りに響いている、満月の綺麗な夜であった。

「あ、ああにぃ」

しかし、ぽつりとあにぃから放たれた言葉は、二人しか住人のいないこの部屋の中の空気を一瞬にして変えた。がたりと座っていたはずの椅子は、床に寝転がり起き上がる事を知らないのだろうか。座ることができず、おれはその場に立ち尽くした。

「そ、それはな」

そんなものおれに聞いてどうするなんて到底言えるはずもない。それよりも、これまで女っけの最初の文字でさえ見せなかったあにぃがこんな質問をするなんてなんという悪夢だろう。

「出来れば即急に頼みます。戸塚尊が知らないのなら、相談相手を変えるというだけです」

「いやっ、そういうわけじゃねーんだ。待ってくれ、あにぃ!!」

そんな悲痛なおれの言葉も虚しく、あにぃは扉に手をかけて外にでていってしまった。急ぎの用事かなにかのなのか、あんなに急いでいる姿は今まで見たことがない。いや、むしろ忙しいというよりか生き生きとしていたのか。

「それにしたって、何なんだ急に･･･」

戸塚尊が知らないのであれば、ここは彼だろうかとおおよその目星はついていた。
白を基調とした廊下をただ一人歩く。草彅Aと付き合い始めてから、多くの事を学んだ。悲しむこと、楽しむこと、そして恋をすること。今まで中身のなかった心がだんだんと満たされていくのが分かった。

「俺は変われたのでしょうか」

それはいい意味でも、悪い意味でも。以前は手を繋ぐことに深い意味を持たず、平然として草彅Aと温もりを分かち合っていた。けれど、最近になってふと心の隅に不思議な感覚が生まれて、今は目すら合わすことも出来なくなっている。

よそよそしいと彼女に指摘されたとき、俺はどんなに驚いたことか。

そんなこんなに思考を巡らせているうちに、ギリシャ神話の部屋へとたどり着いた。我々の部屋とさほど変わらない扉を叩くと、明るい声がこだます。ギリシャ神話の太陽神、アポロン・アガナ・ベレア。彼は書物の中で見る限り、恋多き男だと聞いた。

「やあやあ、ツキツキ。どうしたんだい？こんな夜更けに。僕に何か用かな、用なんだよね？」

「はい。その通りです」

その後は、俺なりに彼に思いのたけを精一杯伝えた。