夕闇のアシスタント (ページ5)

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助手席を開けられ、小さく会釈して中村さんの車に乗り込めば隣でカチカチとラジオを付ける音。少し経って昔流行ったバラードが流れれば、ゆっくりと車が走り出す

と｢Aさん、でしたっけ｣

｢そうです、名前覚えてくれたんですね｣

と｢当たり前。音楽、好きなんすか？｣

｢あ、はい。昔から大好きで。最初は趣味でギターをはじめて、そこから好きになったんです。今はずっとピアノやってます｣

と｢へぇ、ギター弾けるんですか｣

意外、と窓枠に片肘を突いて話す中村さんに、唾液を飲み込んで意を決して話す

｢あ、の！私本気です、男漁りとか、バンドマンと付き合えるとか、ファンだからとか、そんなことじゃなくて………あ、いや、ファンはファンですけど……本当に音楽が、夕闇さんが好きなんです。みんなキラキラしてて……楽しそうで、ファンの方の事考えてて、芯が通ってて…だから、認めてもらえないでしょうか｣

アシスタント、と俯きながら服を握りしめ小さな声で言えば、隣から聞こえる驚いたような声

と｢えっ、もしかして男漁りに来たって思われてる、みたいに思ってました？｣

｢挨拶の時素っ気なかったし、もしかしてあんまり良いイメージじゃなかったかなって………｣

と｢あー……すんません、心配しなくても、あんなに楽しそうに俺らのこと語られたら本気なんだなって思いますよ
その……俺だけ会議の時寝坊してて詳細聞いてなくて、てっきり男だと思ってたら歳上の綺麗な人が来たんで。ちょっと焦ってた、かもしんないっす｣

照れ臭そうに言う姿にホッと表情を緩めれば、中村さんの大きな手が頭を撫でる

と｢怒ってないですから。大丈夫、｣

信号で停まった拍子に低い声で笑い掛けられれば、思わず頬が赤く染まる

そんなことを話していたらすっかり自宅の近くで、ここで大丈夫です、と声を掛ける

｢今日はありがとうございました｣

と｢ん、じゃあまた明日｣

｢……寝坊しないでくださいね？｣

と｢うっせ。明日はしませんよ｣

ぺち、と弱い力でデコピンされる

と｢じゃあまた。｣

｢はい、おやすみなさい｣

車が発進するのを見届けてヒラヒラと振られる手に振り返せば先ほど撫でられた髪の感覚をふと思い出して顔が赤く染まるも、首を振って玄関を開けた