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僕は18になった。
8年間、森の動物たちと、母親が残したたくさんの書物と共に静かにひとりぼっち、暮らしていた。
そんなある日、
「すいませーん、誰かいますー?」
どんどんと扉を叩かれて、本を読んでいた手を止める。
叩くたびにレンガの隙間から粉状になったセメントがぼろぼろと落ちて、家が壊れてしまわないか不安になった。
ずいぶん長い間静かにしていたけれど、家を破壊されるのがこわくて、少しだけドアを開けた。
目だけのぞかせた向こうには、一人の青年が立っていた。きっと、僕と同い年くらいの男の子だった。
少し開けた扉の隙間に足を入れられて、僕が抵抗する暇なく家の中に入られてしまった。
がたんと鍵をかけられて、僕はこわくなってあわててベッドの後ろに隠れた。
「おい、なんで隠れるんだよ」
人の家に強引に入っておいて、彼は図々しい態度をとっていた。
いざというときのために持っていた護身用の太いパイプをベッドの後ろからのぞかせると、彼は少しあわてたように後ずさる。
「ちが、ちょっとの間ここにいさせてくれたらいいんだよ。金なら払うから、匿ってくれ」
金、という言葉に少し目が眩んで、おそるおそる顔を出すと、
とてもきれいな顔をした男の子は、僕の顔を見て少し驚いた顔をしていた。
「お前、こんなとこに住んでんのか」
僕は少しためらって、でも小さく頷く。
「家族は、いるのか?」
首を横にふると、彼は眉を下げた。
彼はりょうすけ、という名前の男で、たいそう裕福な家庭で育ったようだった。
毎週火曜日と木曜日にあるピアノの練習が嫌でお屋敷を抜け出したが、街の方までお手伝いさんが追いかけてきたらしい。
そして、たどり着いたのがこの、人が住めるような状態ではない僕のだいじなおうちだった。
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作者名:なん | 作成日時:2017年4月28日 0時