２ｰ１ ページ4
·
何の変哲もない夜中
だったのは、さっきまでの話
「こんな時間にどうしたんで＿＿ 」
被る布団もとっくに
「わ、ちょっと、あの！？」
「良いから黙って好きにされてて」
玄関を開けるなり引かれた手
靴も脱がず強引に詰められた距離、寝間着姿の私をきつく抱き締めた包帯の腕
なんて、もちろん、訳が判らないにも程があって
「だざ、いさ……苦し……」
濡れた蓬髪と外套からするに、きっと太宰さんは例の如く入水帰りで、そして何故かその足で私の家へやって来たらしい
あまりに強く腕を回されるものだから、裸足のまま玄関を踏む私の足は背伸びに務める
「また死ねなかった」
それは一応嘆きの筈
でも今のには落胆も苛立ちも感じられなくて、何も読み取れない平坦な呟きで
「……えっと」
「ねえ、どうして失敗したと思う？」
正解は判らなかった
けれどきっと、私が判らないのを、太宰さんは判ってるだろうから
そんな彼の腕の中、答え合わせを急かすように、首を左右に振って応えたら
「君の所為だよ、Aちゃん」
最初はいつになく静かな声だった
「入水しても、首を吊っても、毒を飲んでも、いつも君の顔が過ぎって上手くいかない……明日の君を見られないのかと思うと失敗する」
いつの間にやら、不満げなくせにどこか楽しそう
待ってよ、だって
私が彼の趣味を邪魔する＿否、邪魔出来るほどの存在だったなんて有り得るの？
こちとら理解を追い付かせるのに必死で
「そういう訳だから、責任を取ってくれるかい」
そんなのどうやって
私は何をした覚えがある訳でもないし＿＿期待して騒がしい心臓を宥めるだけで精いっぱい、なのに
「私がちゃんと死ねるまで、私のそばに居て、私を愛し続けること、良いね？」
初めて見て聞いた、太宰さんの張り詰めた声と、熱の宿る瞳と慕情に染め上げられた言葉
ぎゅっと握られた手はちゃんと温かい
痛いくらいうるさい胸が夢じゃないことを証明する
「……太宰さんが、私を愛してくれるなら」
これ以外の答えを私は知らなくて
「度重なる失敗は、君と結ばれる今のためだったのかもしれないね」
海の底のように手が届かないと、遠くから眺めているだけで良いと思ってた
それでもずっと好きだった太宰さんが
＿＿＿＿＿今、目の前で私のためだけに笑っていた
·
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 268人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ましろ(プロフ) - こんばんは、夜分遅くにコメント失礼させていただきます。小説を読み返そうと思い作者様のページに素晴らしい作品を見つけてしまいました。最高です。今後とも楽しみに更新待っております……！ (2018年4月5日 2時) (
レス) id: 44c5cd76d2 (このIDを非表示/違反報告)
どんぐり(プロフ) - くるみさん» 返信担当どんぐりです。楽しんで頂けて何よりです。本作は双黒の短編集ですので、良ければ中也さんのお話を読み返して頂けたらと思います。どのお話でも恰好良い双黒が見られるよう精一杯頑張りますね。ありがとうございました！ (2018年4月1日 16時) (レス) id: f67c16c67e (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - ＡＳさん» コメント担当高澤です。回ってきました笑 実は私も面子と現状に未だ驚いております…！立て続けのありがたいお言葉…おふたりにもしっかり届いていると思います！お好みの双黒を届けられる様じっくりゆっくり頑張っていきますね！応援コメントありがとうございました！ (2018年4月1日 16時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
ピロウ(プロフ) - らすくさん» コメント返信ピロウが担当させて頂きます！そんなお言葉が頂けてとても嬉しいです…、素晴らしすぎるお二方との合作は緊張するものでもありますが、少しでも読者様に楽しんで頂けますよう精一杯頑張ります！暖かなコメントありがとうございました！ (2018年4月1日 16時) (レス) id: aafbc19e8e (このIDを非表示/違反報告)
どんぐり(プロフ) - 黒瀬のんさん» コメント返信どんぐりが担当します。嬉しすぎるお言葉にありがたいばかりで返す言葉が見つかりません…。もれなく三人とも人間です（笑）が、三人で頭を捻り合って作品を最高のものにするべく頑張りますね！ありがとうございました！ (2018年3月31日 23時) (レス) id: f67c16c67e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
