2． ページ6
イルミside
奇妙な取引が成立したあの日以来、いつしか仕事が終わるとその足でAの屋敷に寄り、Aの出す花のお茶を飲むのが習慣になっていた。
死体なんて依頼が入ればいつでも出来る。
そんな暗殺という自分の家業に感謝したりして。らしくもないけど。
そして今日も仕事終わりに此処に寄った訳だが、何故か扉を鳴らしても誰も出てこない。
ノブに手を伸ばすと、鍵は開いていた。そのまま扉を開き中に入る。
「A、」
返事は無い。屋敷の中には人の気配すらなかった。とりあえずいつもの地下室に荷物を置きに行く。
地下室へと続く階段を下に降りるに連れて冷気が全身を包みこんでゆく。
階段を降りた先にある扉を開き足を踏み入れると、何かが足に当たった。見るとそれは花の詰まったいくつかのバスケットで、部屋には花の香りが漂っていた。
床に置かれたそれを避けながらいつもの場所に荷物を置く。
ふと目に入った作業台の上。其処には金色のかぎ針と、複雑な模様が織り込まれたレースがぽつんと置かれていた。まだ途中なのだろうか、そのレースからは細い糸がつながったままだった。
そして、やっぱりレースの色は白だった。
何故いつも白を身に着けているのか、いつかそう尋ねたことがある。
「昔、大好きだった人にAは白が似合うって褒めてもらったから」
だから白ばっかり着てるの、Aはそう笑った。
大好きだった人、とは誰だったのか。その答えは未だわからない。
そもそもAの家族は何処にいるのだろう。Aの口から家族の話が出たことはないし、この屋敷でA以外の人の姿を見たことはまだ一度もない。その代わり、いつもAの傍にはリュビがいる。
たった一人で、Aはこの屋敷に住んでいるのだろうか
もしそうなら、この屋敷は一人で住むには広すぎる。
不意に視線を感じて振り向くと、真紅の瞳がじっとこちらを見据えていた。まるで宝石のように澄み切った赤はリュビの瞳で、
「─────」
付いて来い、そう言われたような気がした。リュビはふいと後ろを向くと軽やかに階段を登ってゆく。
階段を登り切るとリュビは開いた扉をすり抜けて外に出る。それに続いて外に出ると、地下の薄暗さに慣れた目には外の日差しは眩しくて、思わず目を細めた。
視界の端でリュビの尻尾が小道へと入ってゆく。向かう先からは地下室と同じ、花の香りが漂って来た。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 240人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HUNTER×HUNTER」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - ずっと前から記憶に残る素敵な作品です……二周目読んで大号泣しながら携帯握りしめてました……。作者様ありがとうございます、この様な作品が再び読めて本当に嬉しいです。 (2020年3月20日 22時) (
レス) id: 059aca8b09 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ(プロフ) - 日本語も発想も舞台も物語も綺麗で美しくて、大好きな作品です。こんな素晴らしいお話を残してくださってありがとうございます。読むことができて幸せです。 (2020年1月26日 0時) (レス) id: 9668003c28 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 柴山犬さん» 此方こそ本当に有り難う御座いました！ (2019年4月29日 8時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - もうかなり前に完結した作品なのに、コメント本当にありがとうございます…！満月。碧蒼さんにうっとりしていただけて、私としても嬉しい限りです。また思い出したときにでも読んでやって下されば、本当に本当に幸いです…！ (2019年4月27日 22時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 本当にもう...息が出来ないくらいに最高でした！うっとりしてしまいました... (2019年4月22日 20時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：柴山犬 | 作成日時：2016年9月4日 23時
