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Aの母親の葬式は、まるで呆れるくらいに美しいものだった。
その日は空は雲一つ無い透き通る様な晴天だった。冬らしい、凛と引き締まった空気が大気を満たしていた。
イルミとAが地下室から棺桶を運び出し、リュビが見事な穴掘りの能力を活かし棺桶を埋めるための穴を準備した。
主役はAの母親。参列者は白と黒の二人と、灰色の一匹。葬式であるにも関わらず、この葬式には故人への別れの挨拶も、祭壇に揺れるろうそくの光も、顔を覆い隠す黒いヴェールも無い。
その代わり、墓標の周りには溢れんばかりの色彩を誇る花々が咲き乱れている。
“ruber”
そう刻まれた十字の墓標の周りにルビーの瞳を持つ灰色の狼が口にバスケットを咥え、際限無く花を運んでくる。サファイアの瞳を持った白の少女は狼と共にじゃれあいながら、空に向かってバスケットの花を撒き散らす。その傍らでは青年が静かに花冠を作る。
少女の手から空に巻き上げられた花弁は、まるで紙吹雪みたいに色とりどりの色彩を空に散りばめる。そのたびに服の袖からは手首をあしらうクロッシェレースの縫目が覗く。
花びらはまるで柔らかい宝石の様に光に透けて、Aの白い髪に反射する。
．
やがて、棺桶を入れた穴の中にまで花が溢れかえった。もう上に土も被せられない程だ。
不意にAは服を探ると鋏を取り出した。
彼女の父親の宝物であり、母親の遺品でもあった、銀の鋏。
「それ、貸して」
Aがこれからしようとすることに気付きイルミはAの手から鋏を取る。Aを座らせ、自分もその傍らに膝をつく。
一度鋏を入れてしまえば、後はあっけなかった。
切り落とされた白く柔らかなAの髪は、イルミの指の間からさらさらと地面へと滑り落ちる。
迷いなく、それでいて十分に慎重にそれを繰り返し、とうとう最後の一束も切り落とした。
「……できたよ」
その声に、Aはイルミを振り返る。その表情はずっと縛られていた何かから解放されたように、何処かすっきりした表情を浮かべていた。
「似合ってる」
イルミがAの髪を撫でれば、Aは静かに微笑んだ。肩までに切りそろえられた白い髪は痛々しくも、その先端を軽やかに風に揺らした。
鋏をAに返し、イルミは立ち上がるとAに右手を差し出す。差し出されたイルミの手を握ると、少女も立ち上がった。
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久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - ずっと前から記憶に残る素敵な作品です……二周目読んで大号泣しながら携帯握りしめてました……。作者様ありがとうございます、この様な作品が再び読めて本当に嬉しいです。 (2020年3月20日 22時) (
レス) id: 059aca8b09 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ(プロフ) - 日本語も発想も舞台も物語も綺麗で美しくて、大好きな作品です。こんな素晴らしいお話を残してくださってありがとうございます。読むことができて幸せです。 (2020年1月26日 0時) (レス) id: 9668003c28 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 柴山犬さん» 此方こそ本当に有り難う御座いました！ (2019年4月29日 8時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - もうかなり前に完結した作品なのに、コメント本当にありがとうございます…！満月。碧蒼さんにうっとりしていただけて、私としても嬉しい限りです。また思い出したときにでも読んでやって下されば、本当に本当に幸いです…！ (2019年4月27日 22時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 本当にもう...息が出来ないくらいに最高でした！うっとりしてしまいました... (2019年4月22日 20時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柴山犬 | 作成日時：2016年9月4日 23時
