1． ページ19
noside
Aが全てを言い終わる前に、イルミは自らの腕にAを抱き締めていた。
Aを抱きしめて、イルミは自分にも体温があるのだと、その事実を初めて知った。
それは自分よりも冷たいAの体温の存在を知ったから。
自分は熱を持たない闇人形の筈なのに、どうして体温なんて持っているのだろう。そんな頭に浮かんだ疑念を深く考える余裕も無く、イルミはただひたすらにAを抱き締めていた。
Aの身体は毛布に包まっていたのに、何故かひどく冷たかった。どうにかして温めてあげたくて、少しでも熱が伝わる様にイルミはAを抱く腕に力を込めた。
「────私ね、ずっと寂しかったの」
言葉の切れ目、そこでAはイルミに抱き締められたまま、喘ぐように息をする。
「あの人の隣で、あの人がレースを編み出してゆく姿をずっと見ていられるのなら、私はそれで幸せだった。
例え愛してくれなくても、あの人に…お母さんに傍にいてほしかったの。
………たった一度でよかった。たった一度、お父さんを通した私じゃなくて、目の前にいる本当の私を見て抱き締めてくれたなら、
私はただ、それだけで、よかったのに──────」
イルミが抱き締めたAの華奢な身体は、小さく震えていた。それは寒さからなのか、哀しみに打ち震えているからなのか、イルミにはわからない。
一度言ってしまえば堪え切れなくなったように、ただひたすらにAはイルミの胸に嗚咽を吐き出した。
イルミの高い鼻筋が、Aの白い髪に埋もれる
そこで息を吸い込めば、Aの白に染まった髪は透き通るように清く、花の香りにも似通った何処か懐かしい香りがした。
この香りをいつか何処かで嗅いだことがある気がしたが、その場所をイルミは思い出せなかった。
．
イルミの中で、今まで感じたことのない感情がふつふつと自分の胸に湧き上がってくるのを感じていた。
それは闇人形として生きる自分なら、絶対に感じ得ない感情のはずだった。
「………独りぼっちが嫌いなら、俺が傍にいてあげる」
イルミの言葉にAが弾かれたように顔を上げる。驚きに見開かれたサファイアブルーの瞳がイルミを見上げる。
凍りついていた孤独を吐き出し、微かに開いた唇は、蒼い瞳から伝った涙で濡れていた。
その隙間が閉じる時間を与えずに、イルミはAの唇に自身の唇を押し当てた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 240人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HUNTER×HUNTER」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - ずっと前から記憶に残る素敵な作品です……二周目読んで大号泣しながら携帯握りしめてました……。作者様ありがとうございます、この様な作品が再び読めて本当に嬉しいです。 (2020年3月20日 22時) (
レス) id: 059aca8b09 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ(プロフ) - 日本語も発想も舞台も物語も綺麗で美しくて、大好きな作品です。こんな素晴らしいお話を残してくださってありがとうございます。読むことができて幸せです。 (2020年1月26日 0時) (レス) id: 9668003c28 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 柴山犬さん» 此方こそ本当に有り難う御座いました！ (2019年4月29日 8時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - もうかなり前に完結した作品なのに、コメント本当にありがとうございます…！満月。碧蒼さんにうっとりしていただけて、私としても嬉しい限りです。また思い出したときにでも読んでやって下されば、本当に本当に幸いです…！ (2019年4月27日 22時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 本当にもう...息が出来ないくらいに最高でした！うっとりしてしまいました... (2019年4月22日 20時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：柴山犬 | 作成日時：2016年9月4日 23時
