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Aside
その日は朝から雪が降っていた。
少ないながらも一日中降り続いた雪は夜には背の低い花を覆うほどに降り積もっていた。
母は私の髪が雪と同じように真っ白になったことにも気づかない様子で、ただ呆けた表情で一日中窓の外を眺め続けていた。
「………なきゃ。あの人が、悲しんじゃう」
夜。唐突に窓を眺めていた母が立ち上がる。何か呟くと母はふらふらとドアを開き、外に出ると庭へと向かった。
慌てて明かりを手に取り母の後を追いかける。外に出るとその寒さにコートを持ってこなかったことを後悔したが、前を行く母はどんどん歩みを進めていき、気を抜くと夜の闇に見失ってしまいそうだった。
吹き付ける風と雪が痛いほどに冷たい。
やっと追いつくと、母は地面にしゃがみこんでいた。
「お母さん、帰ろう。こんな格好じゃ凍えちゃうよ」
雪の上にしゃがみこむ母の目に光はなく、何かを呟きながらざくざくと鋏で地面を突き刺している。
やがて雪の下に花を見つけると、その花を乱雑に引き抜いて、雪と一緒に口に運び
食べた。
私はその異常な光景に寒さも忘れ立ち竦んだ。
雪が創り出した静寂の空間に、母が花を咀嚼する音だけがはっきりと聞こえた。
「………お母さん、家に入ろう？凍えちゃうよ」
白い息と共にやっと口から出た言葉は震えていて。
母は私の言葉も届いていない様子で、ただひたすらに花と雪を貪っている。
すでに母の手は赤くなり、唇も紫色に変わっていた。
「ねぇ、お母さんってば！」
このままだと凍えてしまう。それでも花を貪るのを止めない母の腕を掴みほとんど叫ぶようにして呼びかける。
「煩い！！」
刹那母の腕を掴んでいた手首に熱い痛みが走る。
ポタポタと手首から真っ赤な血が雪の上に滴り落ちる。
母の手に握られた鋏は血に濡れていて、
狂気さえ感じさせる母の目にはこちらを向いていながらも、もう私は映っていなかった。
私は、逃げた
母を其処に残したまま。
生まれて初めて母に恐怖を覚えた
もつれる足を必死で動かし、走り、自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。
じくじくとシーツに手首から血が染み込んでゆく
手首を握りしめ、丸くなる。
目を閉じて浮かんできたのはレースを編んでいた時の母の優しい笑顔。
私は気づいた。
その笑顔は手の届かない所にもう永遠に消え去ってしまったのだと。
涙が溢れて止まらなかった。
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久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - ずっと前から記憶に残る素敵な作品です……二周目読んで大号泣しながら携帯握りしめてました……。作者様ありがとうございます、この様な作品が再び読めて本当に嬉しいです。 (2020年3月20日 22時) (
レス) id: 059aca8b09 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ(プロフ) - 日本語も発想も舞台も物語も綺麗で美しくて、大好きな作品です。こんな素晴らしいお話を残してくださってありがとうございます。読むことができて幸せです。 (2020年1月26日 0時) (レス) id: 9668003c28 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 柴山犬さん» 此方こそ本当に有り難う御座いました！ (2019年4月29日 8時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - もうかなり前に完結した作品なのに、コメント本当にありがとうございます…！満月。碧蒼さんにうっとりしていただけて、私としても嬉しい限りです。また思い出したときにでも読んでやって下されば、本当に本当に幸いです…！ (2019年4月27日 22時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 本当にもう...息が出来ないくらいに最高でした！うっとりしてしまいました... (2019年4月22日 20時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柴山犬 | 作成日時：2016年9月4日 23時
