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Aside
今でも父の葬儀のことは鮮明に覚えている。
黒い喪服に身を包んだ人たち。
立ち込める暗雲と、揺れるろうそくの光。
すべての情景を、はっきりと。
きっとその日が私の人生の分岐点だったからだろう。
大きな黒い棺の中、たくさんの白い花と共に父は其処に横たわっていた。
葬儀に出るとき母は黒いドレスを着て頭に黒いベールを被っていた。
手に花を持った沢山の人たちが棺を取り囲み、父に何か話かけたり頬をなでたりして、手に持った花を棺に入れてゆく。
「Aもお父さんにお別れのキスをしてあげて」
そう母から花を手渡される。
死因が病死だったからだろうか。棺の中を覗き初めて間近で見た父の顔は、写真の中の父よりもだいぶやつれて見えた。私とそっくりだというサファイア色の父の瞳は、永遠に開くことのない瞼の下に隠されていて見ることは叶わなかった。
ただ唇は寡黙だったという父の人柄を表すように固く結ばれていた。
母が言った通り、私は父の頬にそっとお別れのキスをした。
不思議と寂しいとか悲しいとかそういう感情は沸き起こってこなかった。
ただ残っているのはキスをした唇に伝わった張りのない、冷たい肉の温度だった。
「さようなら、お父さん」
そう小さくつぶやき、父の痩せた頬を隠すように手に持った花を添える。
私の隣に立っていた母もベールを捲ると、少しだけかがみ込んで父の唇に自分の唇を重ねた。
その瞬間、母は口元を抑え地面にしゃがみ込むとそのまま泣き崩れた。
周りの人たちが母を支える。
顔を覆い泣き崩れる母の手から花が滑り落ちた。
コルチカムの花だった。
コルチカムは母に駆け寄る人々の足の下で押しつぶされ、花弁を散らし、無惨な姿になっていった。
きっと、この時だったのだろう。
母が壊れていってしまったのは。
踏みつぶされたコルチカムの様に、私達の幸せとか、安全とか、そんな温かいものは父の死と同時に、もう取り戻せないくらいに壊れてしまったのだろう。
そして、あの時の私はまだ忘れていた。
秋の次には、世界の全てが白く凍りつく。
__________長い長い、冬がやってくることを。
コルチカムの花言葉。
『私達の最良の日々は消え去った』
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久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - ずっと前から記憶に残る素敵な作品です……二周目読んで大号泣しながら携帯握りしめてました……。作者様ありがとうございます、この様な作品が再び読めて本当に嬉しいです。 (2020年3月20日 22時) (
レス) id: 059aca8b09 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ(プロフ) - 日本語も発想も舞台も物語も綺麗で美しくて、大好きな作品です。こんな素晴らしいお話を残してくださってありがとうございます。読むことができて幸せです。 (2020年1月26日 0時) (レス) id: 9668003c28 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 柴山犬さん» 此方こそ本当に有り難う御座いました！ (2019年4月29日 8時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - もうかなり前に完結した作品なのに、コメント本当にありがとうございます…！満月。碧蒼さんにうっとりしていただけて、私としても嬉しい限りです。また思い出したときにでも読んでやって下されば、本当に本当に幸いです…！ (2019年4月27日 22時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 本当にもう...息が出来ないくらいに最高でした！うっとりしてしまいました... (2019年4月22日 20時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柴山犬 | 作成日時：2016年9月4日 23時
