伸ばした手 ページ27
己が人殺しに向いていないなど、そんなことは他でもない本人が一番理解しているに違いない。
それでも、どんなに人殺しに向いていないとわかっていても、彼女には“そうしなければいけない”理由があるのだ。そうでなければAは今この場にいない。
これはAが本気で憤っても仕方ないなとも思ったのだが、少女はヒソカの予想に反しペンを持つ手を止めると何か思案するように俯いた。
侮蔑する訳でも怒る訳でもなく、ただそうして無言のまま思案する姿が何故か空恐ろしいものに感じた。
そうして暫くの空白の後、Aはあぁと納得したように頷いた。
「うん、知ってる。でも最初よりはずっと上手くなったんだよ。最初は人の身体の構造なんて知らなかったから全然一発で動脈とか刺せなくて」
「そうじゃなくて、」
そうじゃない。言いたいことは、Aに伝えたい言葉の真意は、そうじゃない。
伝えたい答はとうに胸の奥にある。それでもそれを口にすればきっと彼女との脆い何かが崩れてしまうと、頭の奥深い場所が警鐘を鳴らす。
もどかしさに思わず顔に出さず舌打ちをした時、
「そうじゃないなら、なに？」
ふっとAの瞳から光が消えた。
ゆらりと立ち上がる少女は語尾に疑問符をつけているのに、ヒソカからの回答は一切求めていなかった。
「人を殺すのに向いてないなんて、そんなの、初めて人を殺したときから知ってる。でも今更どうすればいいの？命令に背けばあの子は何より惨い死に方をする。だからあの子を生かす為に人を殺し続けるしかない。もうこれしか私にできることはないの。
……それに、ねぇ」
開かれた瞳の奥は夜よりも遥かに虚ろな闇を映して、ヒソカは元より世界の何も捉えてはいなかった。
闇の中でゆっくりと、少女の唇があまりにも美しく弧を描く。その笑みはA自身に対しての自嘲か、ヒソカに対しての嘲弄なのかは、果たして判別し難かった。
「もう何処にも帰れる場所がないなら、進むしかないじゃない」
誰に聞かせるためではなく、独白的に呟かれた少女の声。
それが地面もひび割れる程にあまりに乾いた声だったので、ヒソカはもう何も言えずに黙ってその場に立ち尽くすしかなかった。
霧散していく血肉の向こう。その奥で、一瞬だけ泣き出しそうに顔を歪めたAの顔が見えたような、気がした。
目を見開いた男が思わず伸ばした手はそれでも何も掴めずに、ただ虚しく宙を彷徨うただけだった。
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がー(プロフ) - 大好きです!!!更新待ってます！！！！！ (2019年11月11日 22時) (
レス) id: 8eb0f6b23c (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - Kさん» コメントありがとうございます。今回の作品は二人のそこはかとない切なさを表現していきたいと思っていたので、Kさんにその切なさを感じていただけて本当に幸いです。のろのろ更新ですが、どうぞ最後まで見守ってやってください…！ (2019年6月17日 22時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 初めまして。切なくて素敵なお話にとても引き込まれました...！応援してます。 (2019年6月14日 10時) (レス) id: 8eeddf36f5 (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - 流-ながれ-さん» コメントありがとうございます！文字数は本当に毎回ヒイヒイ言いながら書いてます……。それでもこればっかりはどうしようもないので、書き手の技量の見せ所なのでしょうね…（遠い目）更新頑張ります！どうかどうか、最後までお付き合い下さいませ…！ (2019年4月9日 1時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
流-ながれ-(プロフ) - 文字数には自分も四苦八苦してますw色々大変ですよね…更新待ってます！ (2019年4月7日 17時) (レス) id: f58151c97d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柴山犬 | 作成日時：2019年3月12日 22時
