木枯らしが枯らす木8 ページ8
ぐにゃり、と視界が歪む。昨日酒を飲んだわけでもないのに、頭の中で耳鳴りがして、平衡感覚を保てなくなって、顎髭は地面に膝を突いた。
眼鏡はその異変にさっと顔色を変え、顎髭の名前を呼ぶ。こんな決死の表情が見られるのはなかなかないことだ、と顎髭は眼鏡の顔を見ようとしたが、首は重力に逆らうのに失敗し、くたり、と脱力する。倒れずに済んだのは、眼鏡が支えてくれたからだろう。
眼鏡の叫び声が聞こえる。誰か、と助けを求める声。自分を抱えながらなのに、その声がやけに遠く感じた。そんなに心配しなくてもいいのにな、というのと、そんなに心配してくれるんだ、というどこか矛盾した思いと共に、顎髭の意識はふっつり途切れた。
目が覚めたのは、病院だった。窓から射す日は傾いて、烏がどこかへ飛んでいった。
名前を呼ばれて振り向くと、そこには眼鏡が立ち尽くしていた。
「目が覚めたんだな」
「ごめんね、心配かけて」
「どうでもいい」
ええ、それはちょっとひどくない? と言おうと思ったが、眼鏡が深刻に俯いたので、やめた。
「贈り物は届けられたの?」
「とっくに届いているだろうさ。あれから何日経ったと思っている?」
え、夕方になったとかではないの、と驚きながら、顎髭は眼鏡から今の状況を聞いた。
あの日、昏睡してから、顎髭はすぐ救急車で運ばれ、様々な検査を受け、熱が上がってきたので入院させられたらしい。脈拍も呼吸も危うい状態で、もしかしたらこのまま亡くなるかもしれない、と医師から言われたものの、眼鏡は顎髭の身内を知らないため、一人、目覚めるのを待っていたという。律儀なやつだ。
「はあ、肝が冷えたが……俺たちはもう、いつ死んでもおかしくない年齢に足を突っ込んでいるんだったな……」
その通りである。
あまりにも突然だったが、お別れの予告を、天とやらが二人にもたらしたのだ。
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作者名:九JACK | 作成日時:2021年2月27日 3時