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木枯らしが枯らす木6 ページ6

朝、とても寒くて、布団から出たくないな、と思いながら、毛布だけずるずると引きずって、カーテンを開けた。
怠さの残る体と目には突き刺さるような眩しさの景色だ。雪が降ったらしい。道理で寒いわけである。
もう一眠りしたいところだが、カレンダーについた丸を見つめる。そう、今日が眼鏡との約束の日なのだ。
「あいつは朝、早そうだよねえ」
顎髭はふわあ、と欠伸をしながら一人ごちた。生真面目で勤勉な眼鏡は毎朝早起きなのだろう。何をするでもないのに。まあ、健康的でいいことなのだが。
顎髭はのんびりとコーヒーを煎れる。特にこだわりのない、インスタントのものだ。黒い粉にお湯を注ぎ、ぐるぐるとティースプーンでかき混ぜる。砂糖やミルクを入れるのが好みだが、朝はブラックと決めている。なんとなく、目が冴えるからだ。
コーヒーだから、カフェイン云々の話があるだろうが、顎髭は詳しくないので、別にどうでもいいな、と思う。
顔を洗って、冷たい水に触れれば、改めて、目が覚める。自分で言うのもなんだが、たいそう立派な顎髭である。
そこから水気を取って、セットし、着替えれば、とりあえずの準備はOKである。
今日は寒いし、雪も積もっているので、コートとブーツを出そう。コートは少し厚手のものを、ブーツはそんなに背が高くなくてもいいだろう。手袋はあったかな。
久しぶりに出す靴はきちんと洗っていたはずだが、微妙な臭いがした。臭いというほどではないが、鼻に印象を残す臭い。
気合いを入れるほどお洒落にこだわりがあるわけではない。焼くのも億劫だな、とスライスされたパンをそのまま口に放り、そのもさもさとした食感を味わう。味があるわけでもないので、美味いかどうかと言われると、かなり微妙である。
そうこうしているうちに、眼鏡がやってきた。催促するでもなく、お茶くらい出すよ、と家に上げれば素直に入る。
「紅茶とコーヒー、どっちがいい?」
「コーヒーだな」
食器は片付けられてはいたが、先程まであったコーヒーの残り香が眼鏡にそう選ばせたのだろう。
眼鏡はコーヒーも豆からこだわりそうだよなあ、と思いながら、インスタントの粉をカップに放る。
穏やかな朝がその日の始まりだった。

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作品ジャンル:純文学, オリジナル作品
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作者名:九JACK | 作成日時:2021年2月27日 3時

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