木枯らしが枯らす木2 ページ2
独り身というと、眼鏡も独り身ではあるのだが、この場合既婚歴のことを言うのだろう。眼鏡はバツイチである。故に元妻がいるし、倅もいる。
対して顎髭は未婚の七十代である。
「弟妹とかいなかったのか?」
「いたら今こんなこと言ってないよ!!」
「だろうな」
とても関心がなさそうに眼鏡が納得する。これの悔しくないことか。顎髭は僕だって、と嘯き始める。
「僕だって恋人の一人や二人や三人四人は作りたかったさ!!」
「多いな」
「結婚だってしたかったさ!!」
「宛てはあったのか?」
「ないけど!!」
「警察官だったなら収入の問題はなさそうだよな……」
「顔とか性格褒めてくれないかな!?」
その通りであるが、酒で若干出来上がりつつあるこいつを浮き足立たせると面倒そうなので、眼鏡はスルーし、訊く。
「そんなに結婚したかったなら、なんでしなかったんだ?」
かねてよりの疑問であった。いつも、結婚や家族がいることに関して、いいないいなと羨む割には努力していた様子がない。顎髭の性格が女性受けするか如何についてはさておき、結婚したかったのなら何故しなかったのか、というのは30年過ごしてきた中でも大いなる疑問である。
顎髭はグラスを一気に煽ると、半ば泣き叫ぶように言った。
「婚期逃した!!」
「……はあ」
婚期。こいつにもそういう概念あったのか、と失礼に当たらなくもないことを考えながら、眼鏡はその言葉について思考を巡らす。
婚期といっても、法律で具体的に定められているのは何歳以上くらいの話で、いつもの顎髭らしい言葉を選ぶなら、結婚するのに年齢は関係ない。眼鏡は先に述べた通り、前後五歳差くらいに留めておくタイプだが、世の中には親子のような年の差で結婚する者もいるという。
だから、言ってしまえば、いつだって婚期なのである。こいつの恋愛概念がそんな感じだったので、まさかその口から「婚期逃した」という言葉を聞くことになるとは夢にも思わなかった。
「僕だってねえ、世間一般の認識くらいはわかってるんだよ。男性は二十代から三十代での結婚が理想的、遅くても四十までだ。五十になったら人生の折り返しなんてとうに過ぎたおじさんだからね……」
「子どもは二十の男もおじさんと呼ぶらしいぞ」
「無情なこと言わないで……」
眼鏡は戯れ言をそんなに言う男ではないため、グラスを空けると、テーブルに置いて、本題に入る。
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作者名:九JACK | 作成日時:2021年2月27日 3時