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私と逢瀬して欲しい、なんて言われて、横抱きにされて連れてこられた場所は大きな桜の木の下だった。
「まあ、なんて立派な桜の木なの。」
「春になるとすごいよ。」
「そうでしょうねえ…まあ、もう蕾が。」
よくよくみると蕾がいくつかついており、一ヶ月後には咲くだろうと思われた。
そうよね、最近すっかり暖かくなってきたもの。
戦の間に冬は過ぎ去り、春はやってきた。
「A」
「はい」
雑渡様を見上げれば、真剣な目が私を見つめていた。
「この桜が満開になる頃に、私と一緒になって。」
真剣な瞳に、すべてを奪われる。
柔らかに吹き抜ける風も、桜の蕾も、全てがなくなったように、その瞳に吸い込まれる。
世界に二人しかいないような、そんな感覚がした。
「…はい。」
「私は忍で、殿に命を預けてる。」
「はい。」
「いつ死ぬかもわからない。Aの側で死ねるかもわからない。Aの知らないところで野垂れ死ぬかもしれない。遺体だって、届かないかもしれない。」
「はい。」
「でも、そうならないように、頑張るから。必死で、地面に這いつくばってでもAの側に帰って来られるように、頑張るから。だから…」
「…はいっ…」
涙で、視界が歪んでゆく。
「だから、私の側に、いてほしい。」
「はいっ…!」
とうとう感情が抑えきれず、涙がこぼれた。
感情のままに、雑渡様に駆け寄り、勢いよく抱きつく。
ひとつもよろめかず、しっかりと抱きとめてくれた腕のなかで、叫んだ。
「そんなこと、当たり前です!ずっと、ずっと、お側にいます!」
「うん、ありがとう。」
ぎゅっと抱きしめ返される。
「ずっとお側にいますから…死なないで。」
「頑張るよ。」
死なないよ、といってもらえることなんて期待していなかった。
だって、雑渡様は忍だから。
頑張るよ、としか言えないことなんて、わかってる。
わかっているけど、それでも死なないでと言わずにはいられなかった。
「好きです、雑渡様。」
「私も好きだよ。」
すっと髪に何かが挿された。
「簪…?」
「そ。求婚するときになにもないなんてかっこつかないでしょ。」
「ふふ」
目尻に涙は溜まったままで、泣き笑いになった。
指でそっと涙を拭う。
ふわりと雑渡様の腕に抱えあげられる。
視線が高くなり、雑渡様を見下ろす。
雑渡様の肩に手を置き、そっと唇に顔を寄せた。
「愛しています。」
この命が、尽きてもずっと。
想いは、永遠に。
完
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ゆき - ハナイツキさん» 今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!最初の方から何度もコメントを頂いて、本当に励みになりました!感謝の言葉しかございません。さらなるいちゃらぶを目指しますので、続編もよろしくお願いいたします! (2023年5月2日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ハナイツキ - 完結お疲れ様です!本ッッッッ当に大好きな小説です!もう雑渡さんにキュンキュンしまくりで、最後の結婚のくだりでは涙ぐみながら読むくらい、、続編も読ませていただきます!雑渡さんとのいちゃラブ生活のご提供、本当にありがとうございました!!! (2023年5月1日 23時) (レス) @page50 id: a0586360be (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - ミリリン(・ω・)さん» 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。続編も書こうと思っておりますので、気長にお待ちいただければと思います。続編もよろしくお願いいたします! (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - astrumさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!続編については、書いてみようかなと思っております。続編の方も、よろしくお願いいたします。雑渡さんとのいちゃらぶ生活…頑張ります笑 (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ミリリン(・ω・) - え?好きです。 ヤバイですね むっちゃ面白かったです! 続編出たら絶対読みます。 気長に待っています! お疲れ様でした! 素敵な作品をありがとうございました! (2023年3月28日 21時) (レス) @page50 id: 5a9db1aae6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2022年1月30日 0時