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「本当に虫酸が走るよ。でもね、もう君は私のものだ。今ここで優しく抱いてあげるからね。」
優しい手付きで、足と手の縄が解かれる。
さああ、と血の気が引く。
この男に抱かれてしまえば、嫁ぐ以外の選択肢が無くなってしまう。
それだけはだめ。いやよ
暴かれた真実に頭の中はぐちゃぐちゃだけれど、ここで全力で抵抗しなければいけないということだけははっきりと分かった。
「やめて、いや、やめて!」
手を振り回し、足をばたつかせて必死に抵抗する。
しかしそれも、女の私では男の力の前では無意味だった。
強引に手首を掴まれ、床に押し付けられる。
恐怖で心が破裂しそうだった。
いや、いや、雑渡様、たすけて
ぐっと着物の襟を広げられる。
ぼろぼろと涙が頬を伝い、幾筋も流れていった。
襟から見えた襦袢にも、手がかけられそうになったその瞬間。
ばんっと扉が開かれ、眩しい光が部屋に差し込んできた。
ごっ、という鈍い音と共に、目の前にあったはずの体が吹き飛んだ。
涙で濡れる目で何が起こったのかを認識しようとしたが、できなかった。
何が、起こってるの
突然、ひしと抱きしめられた。
覚えのある香りが胸を満たす。
わずかに香る、火薬の匂い。
「ざっと、さま」
「うん。ごめん、ごめんね。」
「ざっと、さま」
「守れなくて、ごめん。」
「う、うう…ざっとさま、ざっとさまああ」
「大丈夫、ここにいる。」
「怖い、怖かった…!」
「ごめん。」
ぎゅう、とよりきつく抱きしめられる。
滂沱の涙を流し、雑渡様の胸にすがって嗚咽を漏らす。
涙がとめどなく流れてきた。
雑渡様の首に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。
すると、ふわりと体が浮く感覚がした。
家へ横抱きのまま運ばれ、褥に優しく降ろされる。
雑渡様の手が私の頬に触れ、目に溜まっている涙を拭った。
「怖かったよね。遅くなってごめん。」
雑渡様の眉が痛ましげに寄せられた。
「でも、助けに来てくださいました。本当に…ほっとしたんです。雑渡様が来てくださったから、もう大丈夫、って。」
未だ心を支配する恐怖を断ち切るように、無理やり口角を上げる。
「だから、だから…」
涙が頬を伝った。
言葉喉の奥に詰まって出てこない。
何を言っていいかわからない。
襲われかけているところを見られた。
そのまま許嫁としていられるかわからない。
拒絶されるかもしれない。
でも、それでも。
言いたいことは一つだけ。
「あなたを、お慕いしています。」
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ゆき - ハナイツキさん» 今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!最初の方から何度もコメントを頂いて、本当に励みになりました!感謝の言葉しかございません。さらなるいちゃらぶを目指しますので、続編もよろしくお願いいたします! (2023年5月2日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ハナイツキ - 完結お疲れ様です!本ッッッッ当に大好きな小説です!もう雑渡さんにキュンキュンしまくりで、最後の結婚のくだりでは涙ぐみながら読むくらい、、続編も読ませていただきます!雑渡さんとのいちゃラブ生活のご提供、本当にありがとうございました!!! (2023年5月1日 23時) (レス) @page50 id: a0586360be (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - ミリリン(・ω・)さん» 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。続編も書こうと思っておりますので、気長にお待ちいただければと思います。続編もよろしくお願いいたします! (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - astrumさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!続編については、書いてみようかなと思っております。続編の方も、よろしくお願いいたします。雑渡さんとのいちゃらぶ生活…頑張ります笑 (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ミリリン(・ω・) - え?好きです。 ヤバイですね むっちゃ面白かったです! 続編出たら絶対読みます。 気長に待っています! お疲れ様でした! 素敵な作品をありがとうございました! (2023年3月28日 21時) (レス) @page50 id: 5a9db1aae6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2022年1月30日 0時