40 ページ40
「私には心に決めている方がおりますので、政頼様に嫁ぐことはできません。どうか、お許しください。」
横を向き、政頼様に頭を下げる。
永遠に続くかと思われた沈黙は、甚兵衛様の笑い声によってかき消された。
「はっはっはっは、よく言ったA。そういうことでな、そなたにAをやることはできん。そこにおるAの許嫁が許すとも思えんしな。」
甚兵衛様が扇子で雑渡様を指し示した。
「…そう、ですか…そこの忍がAの許嫁なのですね。」
「はい。」
「忍ごときが…」
いまなんとおっしゃった…？
ぼそりと落とされたつぶやきには、忌々しさがにじみ出ていた。
「政頼様…？」
「はい、何でしょう」
ぱっと政頼様の顔を見たけれど、何事もなかったかのようににっこりと微笑まれただけだった。
こちらもとっさににこりとほほえみ返したが、背中には嫌な汗がたらたらと滑り落ちていった。
「しかし、残念ですね、将来まで誓いあった仲だったのに、このような形で引き裂かれてしまうとは。…どうしたものか。」
「くどい。Aはやらんと言ったはずだ。」
「これはこれは失礼致しました。…では私はこれにて。」
甚兵衛様の不機嫌を感じ取ったのか、政頼様そそくさと退室していった。
再び重い沈黙が部屋を包んだ。
「甚兵衛様、お義父様、雑渡様、申し訳ありませんでした。」
「なぜそなたが謝る」
「…あの方のことを話しておりませんでしたことが、不誠実だと…」
「A殿は謝らねばならぬことは何一つとしてしておらんよ」
「お義父様…」
「さあ、つかれたじゃろう。今日は帰って早く休みなさい。」
「…ありがとうございます。」
行きと同じ忍びに促され、部屋をでる。
雑渡様の顔は、終ぞ見られなかった。
からからと家の戸を開けて、中に入る。
どうして、こんなことに…
重苦しいため息を吐き出す。
よたよたと打ち掛けを脱ぎ、ぺたりとその場に座り込んだ。
それに政頼様が呟いた言葉…あれは一体、何だったの
雑渡様に向けられた明らかな敵意。
あの憎しみが込められた声音は、忘れたくても忘れられなかった。
しかし、いつまでも座り込んでもんもんと考え続ける訳にもいかない。
夕餉の支度も、しないと。しっかりするのよ
ぺちん、と気合を入れるために頬を軽く叩いた。
今日は雑渡様、帰ってくるのかしら
話したいことはたくさんあった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 242人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「忍たま」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆき - ハナイツキさん» 今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました！最初の方から何度もコメントを頂いて、本当に励みになりました！感謝の言葉しかございません。さらなるいちゃらぶを目指しますので、続編もよろしくお願いいたします！ (2023年5月2日 23時) (
レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ハナイツキ - 完結お疲れ様です！本ｯｯｯｯ当に大好きな小説です！もう雑渡さんにキュンキュンしまくりで、最後の結婚のくだりでは涙ぐみながら読むくらい、、続編も読ませていただきます！雑渡さんとのいちゃラブ生活のご提供、本当にありがとうございました！！！ (2023年5月1日 23時) (レス) @page50 id: a0586360be (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - ミリリン(・ω・)さん» 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。続編も書こうと思っておりますので、気長にお待ちいただければと思います。続編もよろしくお願いいたします！ (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - astrumさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました！続編については、書いてみようかなと思っております。続編の方も、よろしくお願いいたします。雑渡さんとのいちゃらぶ生活…頑張ります笑 (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ミリリン(・ω・) - え？好きです。 ヤバイですね むっちゃ面白かったです！ 続編出たら絶対読みます。 気長に待っています！ お疲れ様でした！ 素敵な作品をありがとうございました！ (2023年3月28日 21時) (レス) @page50 id: 5a9db1aae6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆき | 作成日時：2022年1月30日 0時
