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「うっし、射程外だな。」
虎杖君が足を止めるのと同時に、私も止まった。虎杖君は野薔薇を地面に下ろした。
「……よくやった。褒めてつかわす。」
「ヘイヘイ。」
野薔薇の軽口に虎杖君はそう返した。
「嘘。アリガト。」
野薔薇はすこし恥ずかしそうにそう言って、それから私を見た。
「A、手出して。」
そう言われてとっさに私は右手を後ろに回した。
「A。」
「だい、じょう、ぶ。」
「なにが大丈夫なの。」
野薔薇は私を睨みながら言った。怒ってるんだ。でも私にはなぜここで怒られなければいけないのかが分からなかった。
抗議しようと口を開きかけたその時、私は虎杖くんの背後に迫りくるもうひとつの呪霊を見た。
「うしろ!!」
私が叫んだ瞬間、虎杖君は振り返り、そして同時にそばに立っていた野薔薇を突き飛ばした。
ブシュッと大量の血が虎杖君にかかる。それを見て野薔薇が「虎杖!!」と悲鳴をあげた。
その時、野薔薇の体を血の線が貫いた。
「野薔薇!!」
「ーッツ!!」
野薔薇が声にならない悲鳴をあげ、左腕を庇った。見れば野薔薇の左肩から左腕全体にかけて血が当たり、服が溶けていた。
「心配しなくても弟の血に私のような性質はありませんよ。私のだって全身に浴びたりしない限り死にはしません。」
追いついた男の呪霊が私たちの方を見ながら言い放った。
「まあ、死ぬほど痛みますがね。」
そう言って男の呪霊は小指を持ち上げた。
「私たちの術式はここからです。」
『触爛腐術 「朽」』
瞬間、私、野薔薇、として虎杖くんの体にバラの花の模様が浮かび上がった。
「あ゙?」
野薔薇が自分の体に浮かび上がった模様を見て声を上げた。
「粘膜、傷口。私たち兄弟どちらかの血を取り込み私たち兄弟どちらかが術式を発動すれば侵入箇所から腐触が始まります。」
そう言いながら男の呪霊は虎杖君、野薔薇をそれぞれ指差した。
「そちらの少年はもって15分、お嬢さんの方は10分が限界でしょう。」
そして残った私を見て、男の呪霊は目を細めた。
「あなたは、どのくらいでしょうね。」
そう言って男は私の手に浮かび上がった大輪の薔薇の模様を眺めた。二度も同じところに血を受けたせいで私の右手はほとんど使い物にならなくなっていた。簪を握る手は震えている。でも、この中だと私が一番軽症だ。
「さて、どうします?」
男は薄く笑った。
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しょーどくえき - わ!すっごくおもしろいです!続きがとても楽しみです!頑張ってくださいね! (2021年6月20日 16時) (レス) id: 5790125387 (このIDを非表示/違反報告)
猫かぶり - 今は死滅回遊ですよ!!!続きがとても楽しみです!!! (2021年5月21日 20時) (レス) id: 94bc23990d (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 無気力なおバカさん» コメントありがとうございます!この展開は読者様には不評かも、なんて考えている折だったので、これからの展開が楽しみというお言葉に救われました!更新頑張ります。 (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 糸野さん» コメントありがとうございます!スリルのあるなんて素敵な言葉をいただけて嬉しいです。更新が滞っていますがこれからもドキドキさせられるよう頑張ります! (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
無気力なおバカ - 面白いです。これからの展開がすごく楽しみです。キャラ達の関係とかもすごく好みです。更新頑張って下さい! (2021年1月2日 3時) (レス) id: 9900cccf42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柑橘 | 作成日時:2020年11月28日 17時